Fate 16
- 2008/03/25(Tue) -
再び俺が意識を戻した時、そこは宮殿内ではなく見知らぬ天幕の中だった。
上等な肌触りの絹をふんだんに敷き詰めた寝床に、 
滑らかで極上な絹のドレスを纏っている。
ここは何処なのかと、身体を起こした途端、
「…ぁぅ……っ」
俺の口から、鼻に抜ける甘ったるい声が漏れた。
(う、嘘だろ。何だよ、今の声……)
声が掠れているだけでなく、腰が異様なほど重くて怠いし、
それに気の所為ではなくて、後ろのあそこがジンジンと熱を孕んで痛いのだ。

(―――う…ッ!)
一瞬で、あの情交のシーンが頭の中を駆け巡る。
(俺ってば、俺ってば。お、男ことHしちゃったんだ―――…)
しかも、有り得ないほど興奮して、
淫らになって、めちゃくちゃ感じて、あんなことやそんなことまでして……。
(……もう俺、お婿に行けない)
なんて冗句も空回りし、寒すぎて虚しくなる。
(あれは、俺じゃないっっ!あいつが悪いんだ!あいつの出すフェロモンが悪いッ!!)
そう心の中で叫んで、あの出来事の全てを否定する。
ユリアスの放つ、 
妙に甘ったるい香りの所為でひどい目に遭わされたのには違いないのだ。
考えれば考えるほど、益々気が重くなる。
(はぁぁ、最悪だ―――…)
思わず、憂鬱な溜息をつかずにはいられなかった。
行ったことないけど、この気分は、地球の裏側まで行っちゃったっていう感じなんだと思う。
あまりのショックに冷や汗は出てくるし、くらくして気分まで悪くなりそうだった。
俺は、頭を抱え込んだ。
(大体なんだよ、蓬莱人て?俺は、純粋な日本人だっての!)

―――と、熱くなっていた俺の前に、ピョコンピョコンと見覚えのある物体が飛び出した。
「ルビー?!」
(何でこんなところにいるんだよ、お前ー?)
俺は、ウサギのルビーを抱き上げて、頭をごしごしと撫でてるうちに、
もっと重要なことを、度忘れしていたことに気づいた。

あの時、確かめたいことがあると言って、俺のいる内殿に強行突破してきたユリアスたち。
俺の目の前で、苦渋に満ちた顔をさせながら意識を失って倒れ込んだセシア。
それに、その他の人たちは、どうなったんだろうか……。
特にアルザスは武術に強い分、ひどい目に遭ってないか、と急に心配になる。
(早く帰らなくちゃ!)
そう逸る気持ちで、鉛のように重い身体を奮い立たせ、立ち上がろうとしたら、
いきなり床に崩れ込んでしまった。
(げっ……)
「こ、腰が立たない?!」
そう心の動揺を口に出して呟いた時だった。

「気がつかれましたか?」
ご気分は如何ですか、と突然声を掛けられて、弾かれたように振り向いた。
慈愛に溢れているように窺える、
知的なダークブラウンの瞳の男はゆっくりとした足取りで俺の傍へと近づく。
「あなたは確か……」
「王城まで藤也様の護衛と身の回りのお世話を仰せつかっております、 
ファティマと申します」
どちらかというと低めの渋い、けれど穏やかに澄んでいる声は耳に心地がいい。
(―――ってか、今何て言った?この人……)
確かに、王城って言ったような……と、目を彷徨わせ、つかの間の逡巡の後、我に返る。
「……お、王城?!」
ふっと、屈託のない笑みで答えながら、 
「イラスーン王国」のお城へ向かっているのだと言う。
「なんちゃって冗談です……とかじゃなくて?本当にイラスーンへ行く途中なの?」
「はい、一両日中には国境へ差し掛かります」
(ちょっ…… 
そんな綺麗な顔でニッコリ笑っても、コレって誘拐だよ?誘拐。犯罪なんだよ?!)
冗談じゃないってば、何でそんな国に行かなければならなんだ?
俺、今……王女の身代わりしてるんだから、そんな国に行ってる場合じゃないし。
(今すぐ帰して、直ちに帰して、とっとと帰して―――っ)
と思うものの、腰が立たなければ話にもならないわけで……。
とりあえず、控えめに言ってみる。 
 
「あの、えと……すみません。俺、ハリファへ帰りたいんですけど」 
 
するとファティマは、少し困った表情をしながら、
「お食事をご用意しておりますが、その前に果物のジュースでもお飲みになられますか?」
と言って、冷たいジュースを手渡してくる。
(え、スルーしちゃうの?)
言われてみれば、ちょっと喉も渇いていた。
でも、それは……。
(あのエロエロ男のユリアスがいけないんだ!)
普段は絶対に使わない、
女のコみたいな高い声を張り上げさせられれば、喉は傷つき、 声も掠れてしまうよね?
心はハリファへ帰ることで一杯だった俺は、
悠長に飲んでる場合じゃないと、首を振っていらないと答えた。
だが、俺は忘れていた。
この慈愛に満ちた表情をしている男が、恐ろしく怖いということを。
俺が拒絶を見せた途端に、回りの空気が三度は下がり、
眉一つ動かさないまま、鋭い眼差しでで俺を凝視する。
たったそれだけなのに、背筋が震えてしまいそうになるのだ。
「砂漠では水分を取らないと脱水を起こして、すぐに倒れてしまいますよ」
そしてその目は、俺に「飲め」と無言で訴えている。

(もぉ、だから怖いんだってば……その表情)
意気消沈する溜息を漏らしながら、受け取ったジュースをゆっくりと飲み始めた。


〜To be continued〜
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Fate 15
- 2008/03/25(Tue) -
ユリアスの腰が前に動くと内臓を押し上げられ、
引くと内壁をごっそり持って行かれそうな感じに、俺の下肢が身悶える。
けれど、苦しいほどに命一杯に広げられたそこは、燃えるように熱い楔に擦られて、
徐々に満たされていく。

激しく頭を振るう、俺の髪がパサパサッとシーツの上で音を立てている。
ユリアスは、その律動が齎す強烈な快楽と沸き起こる射精感を、
必死になって耐える俺を押さえ付けて蹂躙を続けていた。
「……ぁ、ユ…ユリアス」
上擦った声で名を呼べば、熱い律動を繰り返す男の欲情した瞳と交じり合う。
一気に奥深くまで挿入され、
その打ちつけられる深く抉る大きな腰使いにさらわれてしまい、
「や、あっ、あぁぁ―――っ!」
艶かしい声と共に俺の欲望は解き放たれてしまった。
俺の奥処で、いっそう膨れ上がらせていたユリアスの楔も、ほぼ同時に弾けていた。
だが、お互いに馳せたというのに、
高められた欲望の熱は収まりを微塵も見せないままでいる。

繋がったまま、強靭な腕で身体を表に返され、猛る楔が狂ったように俺の中で暴れまわる。
「ひぁぁ―――…っ」
律動する度に、放たれた白濁が結合部分から零れ出し、
双丘の間を伝ってシーツを滲ませていく。
そして、クチュクチュと濡れた肉が擦れ合う音が室内に響き渡り、その音が羞恥を煽る。
(や、いやだ……熱い、やっ、いや……ぁ)
まったりと包み込む肉壁が蠢き、
ギュッと締めつけた途端、 硬くそそり立った楔がビクンと跳ね、その質量が増大する。 
その僅かな刺激すら鋭敏に感じ取ってしまい、俺の肌がゾクリと粟立つ。

「っ…やぁ……ど、どうして…っ……」

尽きることのない快感に翻弄され、
理性や自分自身を見失ってしまうのは、怖くて堪らない。
この初めての体験に、
涙に咽びながら「どうして」と呟き続ける俺の顔をやさしい双眸が覗き込んでいる。
まるで俺の心情を読み取ったかのように、ユリアスが耳元で囁く。
「感じ過ぎて怖いか……?」
俺は、戸惑いを隠さずに頷いていた。
「心配要らぬ、俺の放つ香に反応しているだけのことだ」
(―――そ、それってやっぱりフェロモン?)
「身体が疼くのは、そなたが蓬莱人である証だ」
(……蓬莱人?)
その言葉は、ほんの少し前に一度聞いたものだったが、何のことだかさっぱりわからない。
「蓬莱人のみ、こうして私の香に反応するのだ」
そう端的に説明したユリアスは、緩慢な動きで腰を揺する。
「やぁ…っ、あ、あぁ……んっ」
俺を見つめながら、ユリアスは苦笑する。
自分を見据える潤んだ瞳、汗でしっとりと濡れ、
所有の証を幾つも散りばめられた仄かに薔薇色に染まった肌。
肉体だけでなく、その藤也という全てが情欲と興奮を相乗させてしまうのだ。
ふぅ、っと困惑する熱い息を吐き出したユリアスは、
透明な蜜を滴らせ、ひくひくと脈打つ藤也の昂ぶりをやさしく扱いた。

「はぁっ…ぁ…あぁ……っ」
挿送の勢いが増し、熱くて硬い楔が俺の感じる場所を抉るように何度も当たる。
頭の中が官能で満たされ、その絶対的な量感と支配されているという感覚が甘く疼く。
(あぁっ、スゴ、気持ち…いい……) 
俺の声に煽られるかのように突き上げる抽挿のリズムが早まり、
膨らみきって重く垂れ下がる豊かな双玉が、ユリアスの股間で激しく揺れる。
「や…ぁっ、ああっ、だめ……あっ、あっ」 
射精感が強まったユリアスは、
ぐっと掴んで押さえ込んだ腰に自身を一際深く突き込むのと同時に、
限界に張り詰めた俺の昂ぶりを強く扱いた。
「ひぁっ…ぁっ、ああぁぁ―――ッ!」

俺は、再び高みを駆け上がり、迎えた絶頂と共に完全にその意識を手放していた。


〜To be continued〜

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Fate 14
- 2008/03/24(Mon) -
弛緩した身体をひっくり返された俺は、 
全てを晒すように腰を突き出す格好をさせられている。
普段なら絶対にさせない状態だが、今の俺はそんなことには気が回らないでいた。
まったりとする特殊な香りに包まれ、まるで甘い海に抱かれているように、 
心が浮遊しているのだ。

「ひぁっ!な、何……?」
突然、冷たい液体が滑らかな双丘の狭間に、垂らされた俺はビクンと身体を振るわせる。
「ただの香油だ」
と 言うユリアスの細長い指先が、
人様に見せたことのない場所へ触れ、そしてゆっくりと入り込んでいく。
「いっ、いやぁぁ……っ」
咄嗟にその指を締めつけ、拒絶を見せる俺の声も、甘くしっとりと濡れている。
初めてのその部分は、もちろん狭い。
だが、不思議なことに痛みはなく、不快感すら官能の渦に飲み込まれていく。
触られた部分、全てが熱を孕み……おかしくなりそうだった。
欲望を吐き出した昂ぶりも、また独りでに立ち上がり、新たな蜜を零し始めている。
それでもユリアスは、ガクガクと振れる身体をまさぐりながら、
今すぐにでも突き込みたい衝動を堪え、
ゆっくりと抜き差しを繰り返し、その部分が指に馴染むのを待っていた。

―――どのぐらいの間、そうしていただろうか。

「気持ちが良さそうだな」
楽しげな響きを混じらせた声でそう言うと、ユリアスは愛撫する指をもう一本増やす。
後孔を執拗に掻き回され、
むずむずとした淫靡な感覚に耐えられず、腰がユラユラと揺れている。
「ひあぁっ、い…やあぁぁ……っ」
指先があるポイントを探り当てた途端、俺の嬌声が上がった。
「やっ、嘘ッ……なっ…んぁぁっ!」
「ここが感じるのであろう?」
三本に増えた蹂躙する指が、中でバラバラと大胆な動きを見せる。
敏感な部分を何度も指の腹で擦られる度に、生きた魚のように肢体がピクピクと跳ねる。
つま先から頭まで電流が走り、スパークするような感覚に、
「あ、ダメ…も、イキそぅ……っ。イクっ!イッちゃぅ……っ!」
だが、限界近くまで張り詰めた昂ぶりは、大きな掌で締め上げられてしまう。
「うあぁぁ―――ッ?!やめっ…、痛っ…ぁ……あぁっ」
放出直前の欲望を塞き止められた俺は、悲鳴にも似た声を上げて身悶え、痛みに耐える。
行き場を失った熱が、狂ったように暴れ回り、身体を苛み続けるのだ。
先端から溢れ出ている蜜は、雫が滴り落ち、ユリアスの手までもべたべたに濡らしている。

「今度往くのは、俺を受け入れてからだ」
そう言ったユリアスは、服の前を寛がせ、尊大なまでに膨らませた楔を取り出す。
日本人の俺とは違い、規格外のソレは驚くほど太くて大きいものだった。
興奮し、発情しているみたいな俺の喉が、はしたなくもゴクリと鳴る。
ユリアスは香油の瓶を手に取り、
猛った楔にとろりと垂らすと、馴染ませるように数回大きく扱いた。
先端が触れ、俺の中に熱くて硬いものが押し入ってくる。
「やっ、あ…ああぁぁ―――ッ」
さすがに、規格外な大きさだけあり、
男の指三本ぐらいで慣らしたくらいでは、すんなりとはいかない。
身体中、熱い衝撃が駆け巡り、
バラバラになりそうになった俺は、ユリアスのがっしりとした腕に縋り付いた。
「力を抜け」
ギュッと閉じていた瞼をうっすらと開けると、
先端の部分だけ挿入した状態の辛そうな、
けれど絶妙に艶かしいユリアスが、俺の視界一杯に入る。
そうさせているのが自分なのだと思うと、堪らなくなってしまう。
「……ユリアス……」
苦しげな吐息と共に囁き、キスを強請った。
一瞬、息を呑んだユリアスの、薄くない整った唇が降りてくる。
俺がその口付けに夢中になっている間に、ユリアスの楔がグッとねじ込まれた。
「んんぅぅぅ……っ!」
ものすごい圧迫感と苦しさ。
そして、痛いほどの燃え上がる灼熱に、俺は声にならない声を上げていた。
きっと唇を塞がれていなかったら、とんでもない大声を張り上げていたかもしれない。

「ユ……はぁ、ぁ……」
身体の奥処がジンジンしている俺の中で、
繋がったまま、微動だにしなかった太い楔が、ピクンと反応する。
しっとりと絡みつき、蹂躙をせがむような甘い壁の収縮と、
その極上な締めつけに危うく持っていかれそうになったのだ。
深く澄み、何処までも青い双眸が静かに笑う。
「……藤也」
欲情に満ちた声が俺を呼び、耳朶を甘噛みするとユリアスがゆっくりと動き始める。


〜To be continued〜

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Fate 13
- 2008/03/24(Mon) -
男の俺が言うのも何だけど、  
覆い被さってきた男の、その姿は目眩がしそうなほど色っぽいのだ。
そして、明瞭なまでに伝わってくる、匂い立つほどの激しい牡の欲情。

男の長い指先が頬に触れる……たったそれだけのことなのに、
甘い疼きが俺の股間を刺激し、じんじんと燻る。
期待感に打ち震える俺の身体は、沸き起こる欲情を抑えられなくなっていた。
もっと深く、腰が蕩けてしまうような……刺激が欲しい。

(―――キスして……)

そう思った時、まるで聞こえてたかのように、男は満足そうに微笑む。
すぐに濡れた唇が重ねられ、口腔をねぶられる。
「……んっ。ふ…ぅ、んん……」 
ねっとりと絡まり合う舌の粘膜から、 
ビリビリと射精感にも似た恍惚とした快楽が沸き上がり、
その、感情を熱く満たすあまりの快楽に、もっともっとと唇を求めてしまう。 
 
俺がキスに夢中になっている間に、男は夜着の中へと手を滑らせた。
生肌に触れる指先がゆっくりと下腹部を伝い、張りつめた自身に絡まった瞬間、
(ゃ、あっ…!)
突然触れられた恥ずかしさと衝撃に、俺の身体がピクンと跳ねる。
「……っ…んん…っ」
そうしている間も、唇を蹂躙し続けて離さない男の腕を叩いて、揺すった。
だけど、細く華奢な身体のつくりの俺と違い、強靭な男の腕はびくりともしない。
そのまま愛撫を続ける男に、どんどん追い詰められていく。
すでに、透明な先奔りの露を零していた敏感な先端を、
ぬるぬると捏ね回された俺は、堪らずに腰を揺らしてしまう。

与えられるのは、目まぐるしい快感。
「ひっ…あぁ…ッ!」
根元を上下に激しく扱かれ、
同時に敏感になった先端の部分をユリアスの熱く潤った舌が淫猥に舐め上げる。
そしてすっぽりと深く銜えられた昂ぶりは、ねっとりと熱い粘膜に纏いつかれ、
翻弄され続ける俺の口から漏れるのは、恥ずかしくなるような甘ったるい嬌声。
「はぁ…っ…、あ……ああっ…い、や……ぁ」
堪らずに、髪を振り乱しながら俺は必死にシーツを掴み、その熱をやり過ごそうとする。
繰り返し訪れる快楽の波に下股が細かに震え、恍惚状態に陥りそうになるほどだ。

そして俺を美味そうに舐め上げるユリアスの顔は、ひどく淫らで艶かしく、
ゾクゾクするほど刺激的だった。
見ているだけでイってしまいそうになるって、 
こういう感じなのか、とぼんやりと頭の片隅で思う。
追い上げられた昂ぶりは、はち切れんばかりに膨れ上がっていて、限界だった。
「も、だめ…っャ、はっ…離してぇ……っ」
猛烈な射精感に、必死に頭を引き剥がそうとしたが、
きつく吸い上げられるのと同時に身体が大きく痙攣し、 
ユリアスの口の内へ欲望を迸らせてしまった。

…ドクッ…ドクッ…… 
と溢れ出す俺の白濁を余すことなく搾取した彼は、それをゆっくり嚥下する。
カァッっと俺の顔から真っ赤な火が噴出しそうになるくらい赤くなるのを感じながらも、
ユリアスから視線を放せずにいた。
薄っすらと目を細め、 
唇に零れた残滓を淫猥に舌先で舐め取り、まるで食事を終えた獣のようだった。


〜To be continued〜

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Fate 12
- 2008/03/23(Sun) -
「……藤也」

寝台の上で寛ぎを見せている男が、俺の名を呼ぶ。
魅惑的なバリトンの声音に、やっと平常に戻った心臓が、トクンと跳ねる。
「藤也、ここへ」
自分の佇む傍のシーツをトントンと指で軽く叩き、そこへ来いと促してくる。
ベッドに座って話を聞く気分じゃなかった俺は、
見惚れて頬を赤く染めながも、見なかったことにしてやり過す。

「さっきの人、あなたが確かめたいことがあるって言ってたけど……」
すると男が俺に問い返す。
「そなたも知りたいとは思わぬか?自分が何者なのか」
(……はぁ?)
いやいや、何者かと聞かれても……
王女の身代わりをしてた一青年、という意外何もないんだけど。
アレか?映画の中に出てくる、
一見普通の主人公が、実は世界的に有名な冷酷な暗殺者だった……とか、そういうヤツ?
そういうことを聞きたいの?
でも、残念ながら期待されてもそんなオチはありませんよ。
俺ってば、二年前までは極普通の高校生してただけなんだから。
(そんなことよりも、俺の方が聞きたいよ)
「何で、こんなひどいことしたの?」
「ひどいこと?」
気にくわなかったのか、少し機嫌の悪そうな表情をし、眉間に皺を寄せる。
「だって、ここにいる人たちに暴力奮ったでしょ」
聞きたいことがあるんなら、正式に申し出れば済むことなのに……。
「婚姻するまでは、特に異性の前に姿を現さぬという相手に、 
どうやって近づけというのだ?」
すっかりそのことを忘れていた俺は、何も言い返せない。

(偶然がそうそう続くとは思えん)
と心の中で呟いたユリアスが痺れを切らし、動いた。

キシッと微かに寝台の軋む音を立てて立ち上がった男が近づくにつれ、 
甘い香りが漂ってくる。
「……!」
(やっぱり、この香り……この人から?)
そう思った数秒後には、心臓がトクトクと忙しなく動きはじめる。

「蓬莱人、という種族を知っておるか?」
(……蓬莱人?)
それは、聞いたことのないものだった。
震えがくるほどの精悍な美貌に目を逸らすことができずにいた俺は、 
首をわずかに左右に振る。
そうしている間も、俺の身体は急激なまでに熱を帯びていく。

(や、やだ……このままだと、また変になる)
危険を感じて後ずさろうとした時、痛いくらいに腕を掴まれた。
「ユ、ユリアス?」
驚いた俺は、咄嗟にさっき教わった名を口にしていた。
すると男は一旦立ち止まって俺を見下ろし、凄く嬉しそうな視線を向けた。
その、ニッコリとあでやかに笑う姿を目の当たりにして、俺の胸がドクンと高鳴る。

次の瞬間、
「―――んっ…」
視界には、黄金のリングが映える、深く濃い蒼色の双眸が広がっていた。
(う……そ、どうして?)
腰をしっかりとホールドされ、いきなり噛みつくようなキスをされた俺の頭の中は真っ白。
「ん……ぅぅ」
そして歯列を割って侵入した男の舌は、猛獣のように襲い掛かり、
俺の舌先を捉えると執拗に吸い上げ、絡め取っていく。
腰が砕けそうになり、意識が朦朧としてくる。
だけど離れようにも、まるで媚薬でも注がれてしまったかのように、 
身体が痺れて動けないのだ。
(んぁ、もう駄目。息が……)
その刹那、送り込まれてきたのは、大量の唾液。
無理やりな形で飲み込ませられた俺の膝から力が抜け、
カクンとした拍子に、透明な糸を引きながら、やっとキスから開放された。

―――だが、それだけでは終わらなかった。

その男は、軽々と俺を抱き上げると傍のベッドの上へと運び、
そして寝かされた俺の上に、今度は覆い被さってくる。
まるで、獲物を追い詰めた肉食獣のような獰猛な牡を呈して……。


〜To be continued〜

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Fate 11
- 2008/03/22(Sat) -
砂漠の夜は、羽織り物が無ければ寒さに震えるほど、気温の低下は著しい。
明かりが絶えはじめ、窓から差し込む月光が室内を蒼く照らす頃。
バタバタと足音立てて、階段を駆け上がるアルザスの部下が、静寂を破った。

「セシア!早く王女を隠し部屋へお連れしろッ」
普段の様子からは伺えないほどの怒声に、尋常でないことを悟ったセシアは、 
全速力で走った。
階下で剣の交じり合う金属音が響いている。
この内殿には、極力最低限の護衛しか、配置されていないのだ。
何が起こったのかはわからないが、
おそらく、アルザスはもちろん、ここにいるその全員が足止めをしようとしているのだろう。
だが、それほど時間稼ぎをすることは出来ないということをわかっている彼女は、 
無心に走る。

「マディーナ様ッ」
その、いつになく慌てた声音に、藤也も敏感に反応して、スツールから立ち上がる。
「何があったの?!」
心配そうな表情を露にした藤也に首を左右に振りながら、
「わかりません」
と一言答えたセシアは、彼を奥部屋へ押し込もうと腕を伸ばした瞬間、
「うっ」という短い呻き声をあげた。
その細い首を、背後から伸ばされた大きな手でぞんざいに絞められた彼女は、
抵抗する間もなく床に崩れ落ちていく。
「……セ、セシア?!」
目を見開いて、名を呼ぶことだけで精一杯な藤也。
本人も気づかないようだが、足がガクガクと戦慄き、カチカチと歯が音を立てている。
そんなことはお構い無しに彼女を気絶させた男は、
何事もなかったかのようにその綺麗な面を藤也へ向けた。

俺を見て、一瞬ハッとしたように目を見開かせた男の声は、
美しい顔に似合わない渋く、落ち着きのあるものだった。
「私は、ファティマと申します」
以後、お見知りおきを……と言って、
上品かつ優美な物腰で挨拶を交わしてきた男の眼差しは、
ギラリと射抜くような強いモノに変わっていた。
只者ではない雰囲気に呑まれた俺の喉が、緊張でゴクンとつばを飲み込んで鳴る。

「失礼ですが、貴方様のお名前は何と仰るのでしょうか?」
「―――ッ!」
驚愕の目で、その男を見上げていた俺の心臓は、
バクバクと、その音しか聞こえないくらいに激しく鼓動している。
「王女の偽者と言うことはわかって、聞いております」
そしてニッコリ笑いながら近づき、身を屈めるようにして耳元で囁く。
「あまり時間をかけると、後ろにいる……あの男がキレますよ」
そう言われた俺は、無意識にドアの方へ顔を向ける。
(……あっ?)
その視線の先には、薄暗い月明かりの中に、精悍の顔をした美丈夫な男が立っていた。
少し離れた距離でもわかる、特殊な虹彩を持つ紺碧色の双眼。
(昼間、会った男……だ)
何故か部屋の奥には入ろうとはしない男は、
ただ、この俺の前にいる男と俺のやり取りを静観しているだけのようだ。

「あの方がキレると、 
誰も手がつけられなくなるので……できれば、早めに答えて頂けませんか」
その傍元で囁かれた俺が視線を戻せば、
「貴方様も、腕力で痛い思いをするのは、お嫌でしょう?」
と、微笑みながら言う。
目だけ笑わせた美形が凄むと恐ろしいもので、
(ひぃ…ぃ、まじ怖―――……)
その普通じゃない震え上がるほどの冷たく強い視線に、 
ぎゅっと指を握りしめて、ぽそりと呟く。

「…………ゃ」
「はい?」
聞こえませんでしたよ、と言うかのように男は自分の耳に掌を宛がっている。
馬鹿にされたような態度に、ちょっとカッとなった俺。
「藤也。植物の藤の木って意味で、藤也っ」
やけっぽい口調で答えれば、
「……だそうですよ」
クスっと喉の奥で笑い、自分の背後にいる男に向かって告げた。
「そうか……」
何故か満足したかのように小さな声でそう呟いた男は、やっとその長い足を動かし、
コツコツと靴音を鳴らしながら、ゆったりとした足取りで部屋の中央へ向かう。

「ちょっ……セシアをどうする気?」
ファティマと名乗った男が、セシアを軽々と抱き上げて踵を返したからだ。
一瞬慌てる俺に、肩越しに振り返ると、
「私の主が、貴方様に確かめたいことがあるそうです」
(……確かめたいこと?)
思いあたる節もなく、首を傾げる俺の顔をジッと見つめながら言葉を続ける。
「少々無理難題を言うかもしれませんが、付き合ってあげて下さいませ」
まるで慈愛の満ちたように優しい表情に戻っている男が、俺の戸惑いに気が付いたらしい。

「そうそう、いいことを教えて差し上げましょう」
と付け加えるように口にしたのは、ユリアスという名。
―――どうやら、それがこの男のいう「主」の名前らしい……。
「呼んで差し上げると、きっと喜びますよ」
ね?と諭すような表情で、意味不明な言葉を吐きながら、
「その間、彼女には別室でお休みして頂きます」
抱きかかえているセシアの顔に視線を流しそう言うと、男の方へ一旦顔を向ける。

「あまり時間を差し上げられませんので」
と、いつの間にか寝台に上がり、
重ねたクッションを背もたれにしている男に言い残し、 足早に廊下の方へ消えていった。


〜To be continued〜

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Fate 10
- 2008/03/22(Sat) -
「あれが、蓬莱人だからだ」
「「蓬莱人??」」

聞きなれないその言葉に、物事にあまり動じないイスファンでさえ、目を見開いている。
「……おそらくな」

……そういえば、昔。
王家に使えていた曽祖父が、退屈しのぎに話してくれた話の中に、
蓬莱人が出てきたものがあったな、 
とどこか懐かしく感じながらファティマは、耳を傾けていた。
最も、幼い時分だった所為か、そこはかとなくしか思い出せないのだが。
確かにあれは、蓬莱人の話だった。

「そうは言っても、私も始めて逢ったのだ」
まだ、確証は持てない、とユリウスは言葉を付け加えた。


―――イラスーンの王家には、古くから言い伝えられていることがある。
王族の血肉は、特定の者にだけ反応し、 
特定の者にだけ反応する特殊な成分を生み出すというのだ。
その“特定の者”とは、 
異なる世界からこの地に降り立ち、 幸運を呼び寄せるという“蓬莱人”を指す。
そして、誰をも魅了するという彼の者を得た者は、その身も心も満たされ、
同時に周りをも幸せにする……と言うものだ。
だが、渡来するのが数百年に一度あるかないかとう頻度からすると、
余程の強運の持ち主でない限り、出会う確立は限りなく0に近いだろう。
仮に蓬莱人が渡来していたとしても、この広い世界、見つけることすら困難のはずだ。
もっとも、 
真に受けて探そうとするほど王家は暇ではないし、実際に探したというものはいないらしい。
……と、まぁ、なんとも空想的な話ではある。

ユリアス自身も、釈然としないのだろう。
「だからこそ、確かめたい」
そう言った彼の表情は、嬉々としている。

ユリアスが、物事に関心がない、とか執着心が薄い、とか言われ続けてきたのは、
彼が幼い時から恵まれた環境にいたからなのだ、とファティマは考えている。
物を持ち過ぎている彼には、欲望という感情が人よりも薄いのだ。
常に必要なものは揃い、たとえ無くとも、彼の人望で物事は必然と集まってくる。
だから彼には、物事にこだわる必要などなかったのである。

そんなユリアスが、初めて執着を見せているのだ。
伝説的な存在であった“蓬莱人”は、唯一、彼が手に入れないものだったからなのだろう。
しかも、聞けば男だという。
ユリアス曰く、
「抱き寄せて身体が密着した時に、 
興奮しかかっていた、あの者の欲望が下半身に触れていた」
のだそうだ。

マディーナ王女の行方を調べさせろ、と命じたユリアスは、蠱惑的な笑みを浮かべ、
「替え玉をしていた本人に、直接聞いた方が手っ取り早いな」
と、呟いている。

―――今宵は、楽しくなりそうだ、とファティマは思う。


〜To be continued〜

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Fate 9
- 2008/03/21(Fri) -
(……筋肉の薄い、柔らかな身体)
抱き寄せた腰は、力を加えれば折れてしまいそうに細く感じた。
(ヴェール越しに零れた熱い吐息と、甘い声……)
直にこの手で触れたら、どのような嬌声を上げるのだろうか。
(……欲しいな)
今まで自ら欲したものなど、一度たりともなかった。
もちろんそれは、望まなくても必要なものは全て自分の回りにあり、
望む必要性がなかったということもあるが、今は、無性に欲しいと思う。
あの柔らかな身体も、声も、そしてあの吐息さえも……。
その全てを自分のものにしたい、そう切望するユリアスの紺碧の双眼は、
飢えた猛獣のようにギラついていた。
  
先ほどの一件の所為で、警備の者が多少増えたのは致し方ない。
そう思いながら、
放射状に枝分かれした小径を北に進み、庭園を半分ぐらい戻った頃。
一旦足を止め、慎重に辺りを伺ったユリアスは、傍らの一人の名を口にした。

「ファティマ」
「はっ」
呼ばれた優美な男は、透かさず膝を折り、耳をそばだてる。
「極秘で、マディーナ王女の行方を調べさせろ」
「…………は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかったファティマは、
わずかに首を傾げたまま、間抜けな声を漏らした。

「あの者は、王女ではない」

告げられた言葉に、ユリアスの傍らにいた、二人の男たちの表情が硬くなっていく。
同盟の話が持ち上げられている今、
王女が替え玉だったとなれば、ことは大事になりうるのだ。
もし仮に、偽者だとは知らずに誰かも分からぬ者を王室招き入れ上、
あまつさえ、子供が出来ようものなら……。
我々は、ハリファの血が流れていない子に継承権を与えることにもなる。
もちろん、姿を隠すという伝統のある国と婚姻を結ぶということは、
そういうリスクも念頭に置かなければならないのも事実である。
でもそれは、逆に言えば、
それだけ相手の国を信じるという信頼関係が成り立つというものだ。
それはさて置き、今回、ユリアス本人にその気がなく、
婚姻の申し出を断ったとしても、同盟の話には、
割と乗り気だったこちら側としては、裏切られ、小国に揶揄されたことには変わらない。
もっとも、あのユリアスがこの件を黙って見過ごすとは思えないが、
百歩譲って大事にする必要はないと思ったとしよう。
イラスーン王国の上層部の中には、先代の王から使えている、
少々頭の硬い融通の利かない年配も多いのだ。
彼らが皆、団結でもすれば、
いくら王とはいえ、説得を施すのも、反対を貫くのも至難であろう。
下手をすれば、国を巻き込んだ戦いにさえなるのだ。

そう思った時、ファティマの頭の隅に疑問が生じる。
あの時の小柄な女性は、
黒いヴェールを被っていたので、はっきりとした顔は分からなかったのだ。
いや、それ以前に……
王女の容姿すら知らないのに、何故偽者だと判断できたのだろうか。

「失礼ですが、何故そう思われたので?」
不思議に思ったファティマの問いに、返されたのは思ってもみない答えだった。


〜To be continued〜

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Fate 8
- 2008/03/21(Fri) -
ふつふつと湧き起こった熱は、急速に上昇していく。

(一体、どうしたというのだ?)

女と接することなど、幼い時分より慣れているはずだ。
なのに……俺は今、初めて会ったばかりの女に興奮しているのだ。
あろうことか、欲望を孕んだ激しい衝動に突き動かされそうになっていることに、
自分でも驚いていた。
強引にでも貪りつきたくなるのを、
ぐっと奥歯を噛み締めてやり過ごし、目の前の女に再度、問う。
「違うのか……?」
するとハッとしたかのように身体がピクリと反応し、
女の視線がゆっくりと俺の腕の中にいるウサギに移る。
「いえ。その、……ウ、サギです」
言葉切れ切れに、そう答えた女の身体が、
その場に崩れ落ちそうになり、俺は咄嗟に抱きとめた。
そして、その細い腰を力強く抱き寄せた瞬間、
「ゃ……ぁっ」
甘く濡れた吐息が零れた。
欲情しているのが明らかに自分だけではないと、
密着した腰の間の違和感が語っていた。
男なのか、と一瞬、驚いた俺の口角が楽しそうに吊りあがる。
(…………面白い)
そう思った俺は、腕の中の役目を果たして物体化したものを、
傍らに控えていたイスファンへと放った。


―――あれは、半月前のことになる。
その日の会議は、いつにになく重要なものばかりで、重たい空気が漂っていた。
やっと最後の議事も終わり、
立ち上がろうとした時、末端に座っていた者が挙手したのだ。
それが、ハリファ王国から申請された、今回の同盟の話である。
それは偶然だったのか、それとも必然だったのであろうか。
本来なら、自らが動くことなど必要のない件ではあった。
だが我侭で、強欲な寵姫たちの相手にうんざりしかけていた俺は、
気晴らしにと、この国へ足を運ぶことにしたのだ。
―――それが、どうだ?
まさかこんなところに、幼い時分に聞かされ、密かに欲していたモノがあるとは、
露ほどにも思っていなかった俺が、
(なんたる強運!……神の采配か)
と、歓喜に打ち震えようとしていた時だった。

「「マディーナ様―――!」」

遠方から、バタバタと走り寄る足音と共に、高揚感が一気に失せる。
「チッ」
(……忌ま忌ましい)

しかも、恰幅のいい体躯をした男が、強引に俺の腕の中から奪い取っていったのだ。
(この男、どうしてくれよう)
これが我が王国の領土内なら、即刻、切り倒してやるところだ。
だが、そうもいかないため、煮えくり返るような気持ちを、
目前の男に向けることで相殺させるも、ことごとく、俺の努力を打ち破ってくれるのだ。
本当に虫の好かない男だ。
でも、まあ良い。

―――賽は投げられたのだから。


〜To be continued〜

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Fate 7
- 2008/03/20(Thu) -
周りに大きな国々が隣接するという、
地理的に不利なハリファ王国の利点といえば、
大陸のほぼ中央に位置していることだ。
広大な陸地を渡る商人たちなどの中継地点にあたるため、
町の大通りは、行商の人々で賑わっている。
国土が狭い上に大した資源もなく、財力も軍事力もさほどないない国ではあるが、
様々な国々と交流することで、多くのな情報を手中に収めていた。
内情が貧国とは思えない王宮の中で、派手やかな造りをしている宮殿は、
決してバランスが良いものではないが、
あらゆる国の芸術や調度品で埋め尽くされている。
そのほとんどは、代々この国に生まれた清らかな王女たちが、
政略結婚をしてきたおかげてあった。
同盟を結ぶことにより、戦争を回避したり、経済的支援などを得てきたのである。

今日も、様々な来客で雑踏する謁見の間の中に、
視察目的で訪れていた、まだ国交を交わしていない大国の一団があった。
その中の数人が、謁見の間をはなれて中庭へと向かう。

その場所は、乾燥した砂漠地帯の中にあるとはとても思えないほど美しく、
見事な庭園を前にした彼らの脚が一旦止まる。
彼らは、他愛のない会話をしながら、ゆっくりとした足取りで警備兵の前を通り過ぎる。
辺りから聞こえるのは木々を渡る風と微かな水音。それと小鳥の囀り……。

「噂では耳に致しておりましたが、これほどまでに美しいとは思ってもみませんでした」
「……ああ、そうだな」
と、つまらなそうに相槌を打った男は、ほとんど興味がなさそうな表情をしている。
「ユリアス様。話の調子を合わせて頂き、
恐縮なのですが……できればもう少し感情を入れて頂かないと、
とても共感しているようには思えないのですが」
「無理を言うな、ファティマ。確かに素晴らしい庭園ではあるが、
ユリアス様の興味を引くものじゃないだろ?」
そう、抑揚のない声で問う男は、三十前後といったところであろうか。
琥珀色の瞳は大空を舞う猛禽類を思わせるような
鋭い光を宿している男の名は、イスファン。
誇り高き遊牧民の血を引く彼は、武勇に秀でいる。
彼は、自分の興味のないものには無機質的な感情を露にし、
何処までも冷たくなる男であるが、
一度自分のテリトリーに入れた相手には、心底つくすタイプである。
そういわれて、はぁぁーっと意気消沈するような深い溜息を零したファティマは、
明るい栗毛の髪は少し長めで、
慈愛に溢れているように窺える知的なダークブラウンの瞳をした、
洗練された顔立ちの若者である。
だが、見たくれに騙されてはいけない。
その顔からは想像できない脆弱とは無縁な胸板をしているのだ。
「それに、我が国の庭園の方が造形的にも技術的にも上をいっていると思うが?」
横やりを入れるイスファンを横目に、
「それにしても、銅山、たった一つの採掘権とは……な」
話にならぬ、と不機嫌ぎみな声を露にしたのはユリアスである。
「採掘権だけではないじゃないですか。
美しくて聡明だという噂の王女が輿入れするのですよ?」
「そんなもの、後宮に腐るほどいるであろう」

後宮の姫たちは、敗戦国の生き残りだったり、
人質同然のような形での同盟や、  
政治上の駆け引きを目的としたためなど、理由は色々ある。
けれど、自国が有利になるためにならどんな努力も厭わないという、
損得勘定で動く彼女たちの大半は気が強くて敵わない。
ほぼ日常化している後宮内の争いごとにうんざりさせられているユリアスにとっては、
迷惑極まりないことなのだ。
これ以上の火種を増やしてどうする、と口にしようと思った時だった。
庭園内に、微かな鈴の音が届く。
そのわずか後に続く、
「ルビー?」
何かを探しているような口調な可愛らしい呼び声。

それまで何にも興味を見せなかったユリアスの視線が、
その声に誘われるように流れる。
丁度、木々の間から、小さなウサギが飛び出してくるところだった。
驚いたのは、離れた場所からでもはっきりと分かるウサギの胸に赤く輝く宝石。
あれだけ大きければ、かなりの希少なものであり、高価な物であることは間違いない。
このハリファ王国よりも遥かに富み、
鉱産物にも段違いなイラスーンの国内でも、滅多にお目見えしない類のものだ。
それを惜しげもなく首にしているウサギは、
ぴょんぴょんと楽しそうに飛び回っているのだ。
十中八九、間違いなく王族のペットなのであろう。
自国の王城や後宮内でもありえないその光景に、
飼い主を見てみたい衝動に駆られたユリアスの口が開く。
「イスファン、あれを捕らえろ」
主に命を受けた、顔に傷跡のある体格のよい男が機敏に動く。
彼にとっては、たかが一匹のウサギを捕らえることなど、雑作もないことだった。
あっという間に捕らえた、あどけない顔をしたウサギをユリアスに差し出す。
胸に輝く赤い石は、やはり、あの『ピジョンブラッド』であった。

「ルビー、ルビー??」 

そう呼びかける声音は、先ほどよりもかなり不安げなものに変わっている。
と、木立の隙間から黒いヴェールを被った女が現れた。
ウサギを探している女は、没頭するように草むらを必至に覗き込み、
ユリアスたちの存在に気づきそうもにない。
ユリアスは、華やかな宮殿で見かけた女たちは皆一様に、
白やオレンジやピンクなどの明るい色のヴェールを被っていたことを思い出していた。
自国の着飾る後宮でも、喪中以外で黒いものを着用する姫を見た例がない。
そして、眼下のヴェールの隙間から覗く女のドレスは鮮やかなラベンダー色をしている。
しかもその裾は、たっぷりと贅沢な金糸のレースで縁取られているではないか。
ふと、さきほど広間で耳にしたことを思い出した。
ハリファの王女は、婚姻するまで、その姿を異性には見せないのだと。
(……王家のものか?)
鈴の音をシャンシャンと鳴らせるその人物に、
何故か興奮しそうになる感情を抑制しながら、ユリアスは静かに声をかけた。

「探しているのは、このウサギのことか?」

ゆっくりと振り返るようにして顔を上げた女は、
俺を真っ直ぐ見つめたまま、ピタリと動きを止めた。
ヴェールに隔てられた表情や容姿は、はっきりとは分からない。

―――なのに、だ。
誘惑されているように思えてしまうその視線に、ユリアスの身体が甘く疼く。


〜To be continued〜

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Fate 6
- 2008/03/20(Thu) -
アルザスが、宮殿までの道案内を侍女のセシアに命じたが、「それには及ばない」と断った男は、
籐也に一礼すると、共にいた数人の男たちを引き連れ、何事もなかったかのようにその場から離れていく。
その様子を後ろ目で確認しながら、アルザスは籐也の背後についた。

―――一方の藤也は、この世界へ来てから、数えるくらいしか内殿から出たことがなかったため、        
久しぶりの外側の風景を楽しみながら歩いていた。
外側といっても、宮殿内の中庭なのだが、それでも今の籐也にとっては、新鮮でうれしいことだった。
そして、この囲われた生活も、もうじき終わるのだと思えば、それほど苦にも感じない。

マディーナ王女には、出来ることなら正式な侍女になって、いずれ嫁ぐであろう国に一緒に付いてきて欲しいとは言われている。
でも、一度きりの人生だから、後悔しないように自分の進みたい道を考えてから決めてくれればいいと言う。
常に他人のことを一番に考えている彼女に、自分は何をして上げられるのか。
そう考えた時、王女として生まれた瞬間から、己の意思など汲んではもらえない生活を強いられてきた彼女に、
短い期間ではあるが、二年間という自由時間をプレゼントしたんだ。
内殿に入れる者は、ごく少数に限られていたし、王女は嫁ぐまで容姿を隠さなければならないという風習は、計画に好都合だった。
そして、その代わりに、俺に考える時間を与えてくれた彼女が、まもなく帰国の途に着く。

この世界のことすら、ほとんど何も知らない状態で、
進む道を決めること自体無理だということに気づいた俺は、結論を出すのは簡単だった。
王女と共に同じ道を進めば、行動の自由に何らかの制限が付くというマイナス面はあるだろうけど、生活に困ることは少ないはずだ。
でも俺は、この先どんなに苦しくなろうとも、自分の足で立って歩いていきたいと思うんだ。
だからその為にも、まず、この世界を知ることから始めようと思う。
知らないことだらけということは、どんな小さな発見にもワクワクするもんだろ?
(実際、さっきも知らない国の人に会ったし……)
あんな瞳をしている人が、この世界にはいるんだ、そう思った瞬間、
(うあぁ、待ったッ。今のなし、なし―――!)
あの身体が熱くなって変になってしまった自分を、すっかり頭の隅に置くことで忘れていた藤也は、
頭を激しく左右に振って、慌てて否定した。

「マディーナ様?」

突然、妙なことをした所為か、後ろを歩くセシアが驚いている。
「ごめん、ごめん。なんでもないから」
少しのことにでも気を掛けてくれる、俺にはもったいないくらいによく出来た侍女に、あははと笑って笑みを返す。
でも、一度気になりだしてしまったら、後には引けなくなるのが人情だろ?

「ねぇ、アルザス。さっきの人から、変わった香りがしなかった?」
それでも、ストレートに聞くのを躊躇った俺は、ちょっと話を濁すことも忘れない。
「あの人たちが、イラスーン王国の人なの?」
すると、アルザスは、ぴたりと足を止めて振り返える。
「そうですね。今、この宮殿に滞在することを許されているのは、イラスーン王国の方だけですから」
「やっぱり、イラスーンの人だったんだー」
気持ち、ほんのりテンション上げて明るく振舞う俺。
「で、マディーナ様。変わった香りとは?どのようなものでしょうか」
目を細め、辛辣な表情のアルザス。
(あちゃー。全然、濁ってないし……)
「うん。……甘いような香りなんだけど」
俺がそう言うと、アルザスは眉間にしわを寄せながら遠くを見つめ、逡巡する。
「特に、そんな香りはしていなかったと思いますが」
そう答えて、お前は思い当たらないかと視線をセシアに流したが、彼女も首を横に振るだけだった。
(……ってことはやっぱり、妙な気分になっちゃったのって俺だけなのかな)
そんなことは、当然おくびにも出さない。

「その香りが、何か?」
「ううん、気の所為だったかもしれない」
俺は、肩を竦めて両手をあげ、降参のポーズをしてみせる。

あの時、自分の傍にいた二人が、二人とも匂いを嗅いでいないという。
そして、何だかんだであの場にわさわさといた人たちの中で、おかしくなったのは自分独りだけらしい。
(ってことは、薬のような作用をもたらすという、特別なお香とかじゃなさそうし……)
そういう危険なものを使われていたなら問題だけど、そうじゃなみたいなら大事にする必要はないよね?
と、ひっそりと思う俺。
(……ってなると、あれだ。フェロモンってやつ―――?)
他に思い当たるものがなかった俺は、本当に実在するのか知らないけど、フェロモンの所為だと勝手に思い込む。

それにしても、今更だけど、あれはかなり強烈で、刺激的だった上にヤバかった。
(俺って、もしやフェロモンに敏感なタイプなのか……?)
顎に手を置き、
(いやいや、違うだろ。きっとあの男の出すフェロモンには、前に“スーパー”がついてるんだ)
などと無理やりに言い訳を考える自分に苦笑している頃、目的地に到着していた。


侍女のセシアと何やら楽しそうに笑いを飛ばしながら、
内殿の敷地の中へ足を踏み入れていく、籐也の後姿を見ながら、アルザスは思い出していた。
挑発するような態度をし、獲物を狙うような鋭い目つきをした……あの男のことを。
そして、願う。

―――このまま、何も起こらなければいいと……。

〜To be continued〜

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Fate 5
- 2008/03/19(Wed) -
アルザスが、宮殿までの道案内を侍女のセシアに命じたが、
「それには及ばない」と断った男は、
籐也に一礼すると、共にいた数人の男たちを引き連れ、
何事もなかったかのようにその場から離れていく。
その様子を後ろ目で確認しながら、アルザスは籐也の背後についた。

―――一方の藤也は、この世界へ来てから、
数えるくらいしか内殿から出たことがなかったため、
久しぶりの外側の風景を楽しみながら歩いていた。
外側といっても、宮殿内の中庭なのだが、
それでも今の籐也にとっては、新鮮でうれしいことだった。
そして、この囲われた生活も、
もうじき終わるのだと思えば、それほど苦にも感じない。

マディーナ王女には、出来ることなら正式な侍女になって、
いずれ嫁ぐであろう国に一緒に付いてきて欲しいとは言われている。
でも、一度きりの人生だから、
後悔しないように自分の進みたい道を考えてから決めてくれればいいと言う。
常に他人のことを一番に考えている彼女に、自分は何をして上げられるのか。
そう考えた時、王女として生まれた瞬間から、
己の意思など汲んではもらえない生活を強いられてきた彼女に、
短い期間ではあるが、二年間という自由時間をプレゼントしたんだ。
内殿に入れる者は、ごく少数に限られていたし、
王女は嫁ぐまで容姿を隠さなければならないという風習は、計画に好都合だった。
そして、その代わりに俺に考える時間を与えてくれた彼女が、まもなく帰国の途に着く。

この世界のことすら、ほとんど何も知らない状態で、
進む道を決めること自体無理だということに気づいた俺は、
結論を出すのは簡単だった。
王女と共に同じ道を進めば、
行動の自由に何らかの制限が付くというマイナス面はあるだろうけど、
生活に困ることは少ないはずだ。
でも俺は、この先どんなに苦しくなろうとも、
自分の足で立って歩いていきたいと思うんだ。
だからその為にも、まず、この世界を知ることから始めようと思う。
知らないことだらけということは、どんな小さな発見にもワクワクするもんだろ?
(実際、さっきも知らない国の人に会ったし……)
あんな瞳をしている人が、この世界にはいるんだ、そう思った瞬間、
(うあぁ、待ったッ。今のなし、なし―――!)
あの身体が熱くなって変になってしまった自分を、
すっかり頭の隅に置くことで忘れていた藤也は、
頭を激しく左右に振って、慌てて否定した。

「マディーナ様?」

突然、妙なことをした所為か、後ろを歩くセシアが驚いている。
「ごめん、ごめん。なんでもないから」
少しのことにでも気を掛けてくれる、
俺にはもったいないくらいによく出来た侍女に、あははと笑って笑みを返す。
でも、一度気になりだしてしまったら、後には引けなくなるのが人情だろ?

「ねぇ、アルザス。さっきの人から、変わった香りがしなかった?」
それでも、ストレートに聞くのを躊躇った俺は、ちょっと話を濁すことも忘れない。
「あの人たちが、イラスーン王国の人なの?」
すると、アルザスは、ぴたりと足を止めて振り返える。
「そうですね。今、この宮殿に滞在することを許されているのは、
イラスーン王国の方だけですから」
「やっぱり、イラスーンの人だったんだー」
気持ち、ほんのりテンション上げて明るく振舞う俺。
「で、マディーナ様。変わった香りとは?どのようなものでしょうか」
目を細め、辛辣な表情のアルザス。
(あちゃー。全然、濁ってないし……)
「うーん。……ちょっと刺激的な甘いような香りなんだけど」
俺がそう言うと、アルザスは眉間にしわを寄せながら遠くを見つめ、逡巡する。
「特に、そんな香りはしていなかったと思いますが」
そう答えて、お前は思い当たらないかと視線をセシアに流したが、
彼女も首を横に振るだけだった。
(……ってことはやっぱり、妙な気分になっちゃったのって俺だけなのかな)
そんなことは、当然おくびにも出さない。

「その香りが、何か?」
「ううん、気の所為だったかもしれない」
俺は、肩を竦めて両手をあげ、降参のポーズをしてみせる。

あの時、自分の傍にいた二人が、二人とも匂いを嗅いでいないという。
そして、何だかんだであの場にわさわさといた人たちの中で、
おかしくなったのは自分独りだけらしい。
(ってことは、薬のような作用をもたらすという、特別なお香とかじゃなさそうし……)
そういう危険なものを使われていたなら問題だけど、
そうじゃなみたいなら大事にする必要はないよね?と、ひっそりと思う俺。
(……ってなると、あれだ。フェロモンってやつ―――?)
他に思い当たるものがなかった俺は、本当に実在するのか知らないけど、
フェロモンの所為だと勝手に思い込むことにしたのだ。

それにしても、今更だけど、あれはかなり強烈で、刺激的だった上にヤバかった。
(俺って、もしやフェロモンに敏感なタイプなのか……?)
顎に手を置き、
(いやいや、違うだろ。
きっとあの男の出すフェロモンには、前に“スーパー”がついてるんだ)
などと、自分は普通なんだと思えるよう、
無理やりに言い訳を考える自分に苦笑している頃、目的地に到着していた。


侍女のセシアと何やら楽しそうに笑いを飛ばしながら、
内殿の敷地の中へ足を踏み入れていく、
籐也の後姿を見ながら、アルザスは思い出していた。
挑発するような態度をし、獲物を狙うような鋭い目つきをした……あの男のことを。
そして、願う。

―――このまま、何も起こらなければいいと……。


〜To be continued〜

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Fate 4
- 2008/03/18(Tue) -
体中の血液が急速に騒ぎ立ち、自分の意思とは無関係にどんどん追い立てられる。
こんなことは初めてで、パニックを起こしそうになる。
(どうしちゃったんだ、俺の身体……?!)
急速に熱が股間に集中し、下半身から力が抜けて、もう立っていられそうにない。
そんな萎えそうになった俺の腰を、男の強靭な腕が抱き寄せる。

「ゃ……ぁっ」

下半身が密着し、俺の身体がビクリと反応する。
男相手に欲情するなんて自分でも信じられないが、あまりの恥ずかしさに身が震える。
「大丈夫……か?」
そう問う男の声も、欲情に満ちているように聞こえるのは気の所為だろうか。
長い指が俺の頬に向かってゆっくり伸ばされ、そして……ヴェール越しに触れる。
「……は…ぁっ、…ぁ……ゃっ」
たったそれだけなのに物凄く感じてしまい、俺の口から甘い吐息が零れる。
もう、おかしくなりそうだった。
男の美貌が間近になり、ヴェール越しの唇に男の熱い吐息がかかる。
(ああ、このまま……キス…して欲しい―――…)
そう思ってしまった刹那。

「「マディーナ様―――!」」

王女のを呼ぶ声に、ハッと我に返った俺。
その方向へ視線を向けると、懸命にこちらに駆け寄るセシアと、
本物のマディーナ王女付きの護衛であるアルザスの姿が見えた。
特にアルザスは、今まで見たことがないような鬼気迫るような表情をしている。

「チッ」
俺を抱きかかえている男が、突然、忌々しそうに舌を打つ。
そして、顔を男に戻せば、 
その男の背後に究竟な男たちが控えていることに初めて気づいた俺。
(ひぇぇ―――…っ。この人たちに、全部見られてたのか?!)
男に欲情し、興奮し……
そんな、信じられないような姿を間近で見られていたんだと悟った俺は、
一瞬で穴があったら入りたいモードに突入する。
(うわ、まじ恥ずかしい―――…)
と、心の中で叫ぶ中、
「マディーナ様、こちらに」
カツカツと靴音を鳴らしながら俺の目前に近づいたアルザスが、
ぐいっと少し強引気味に、俺を男から引き離した。

ウサギを探した時に着いたドレスの汚れを見て、勘違いしたのだろう。
ものすごい力で俺の両肩を掴み、
「お怪我は?」
これまた、ものすごく焦った顔で聞いてきた。
申し訳なくて、居た堪れなくなった俺は、
小さな声で「……ないです」と答えるのが精一杯だった。

そして、異変に気づき、慌てて近寄ろうとした兵士たちに向けて片手を挙げて、
俺に近づくのを制したアルザスは、俺を見下ろして言う。
「内殿からお出になられてはいけないと言うことは、分かっておいでですよね?」
うんうん、と俺は首を縦に振る。
「……ごめんなさい。ルビーを探してたら、こっちに出ちゃって」
すると、微かに歪めた表情のまま、ふぅっと息を吐く。
その後ろで、胸の前で祈るように掌を組んだセシアがはらはらした様子で見つめている。

心配をかけてしまった二人に、ごめんなさい、ともう一度詫びようとした時、
目を細め、剣呑な目つきを露にしたアルザスが動いた。
俺の身体を背中の後ろに隠すように前へ出ると、  
蒼色の双眼の男と対峙するように向き合う。


〜To be continued〜

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Fate 3
- 2008/03/18(Tue) -
小国であるハリファ王国は、
人口もそれに匹敵して少なく、もちろん軍事力や経済力も大きくはない。
そんな国がこの数百年の間、近隣諸国から侵略されなかったのは、
国を守るために、
王家の女性が近隣の他国へ人質同然のような形で輿入れをしてきたからだという。
それは、友好の証であったり、同盟の証であったりするが、
名目は何であれ、政略結婚には変わりはない。
戦争回避を目的としたり、経済的支援を得るため、 はたまた、
相手の国王の継承権を得るためなどの政治的な目的で
他国へ赴かなければならない彼女たちは、身内以外の人間の接触を制限するために、
内殿と呼ばれる王女専用の宮殿で過ごすのだそうだ。

マディーナ王女も例外ではなく、 
十七歳になれば隣国の花嫁にならなければならないという。
また、王女たちが公式職務などで内殿から出る場合は、
黒いヴェールを頭からすっぽりと被り、容姿をさらさないようにするのも決まり事らしい。

そんなわけで、王女専属の騎士意外の男はいない内殿に住まわさせてもらう以上、
有無を言わずに女性の格好をしなければならないのだ。
そして、ただ今の俺は、二年間という期限付きで、
十五歳になるまで宮殿から一歩も出たことのないという
マディーナ王女の替え玉をしている最中であったりもする。
ちなみに、現在、彼女は幼馴染だという専属騎士の一人を連れて、
異国を旅する冒険中なのである。
そんな彼女の自由時間も残り少なくなり、後数ヶ月で終わりを迎える。


(……それにしても、鬱陶しいよなぁ)


視界を隔てる薄い布は邪魔物でしかなく、
二年近く経った今でも、このヴェールは馴染めないでいる。
(これじゃ、可愛いルビーが良く見えないんだよね〜)
そう心の中でぼやき、ヴェールを少し掴んだ瞬間、俺の膝の上にいたルビーが飛び降りる。
鎖に繋がれたいなかったルビーは、
それこそ嬉しそうにピョンピョン跳ねて、どんどん遠くへ行ってしまう。
(げっ、マジ―――?!)
ウサギってそんなに足速かったのかよ、
と一瞬、呆然としてしまった俺だけど、絶対にルビーを見失うわけにはいかないのだ。
何せ、王女のプレゼント……いや、
ウサギ自体よりも、あのめちゃめちゃ高そうな宝石を失った、とはさすがに言えない。
全身の血がサーッと引いたように寒くなった俺は、
咄嗟にドレスの裾を持ち上げると、ダッシュする。
ちなみに、走りながらシャランシャランと響く鈴の音は、
俺の足首に飾られたアンクレットだ……。

「ルビー?」

だが、俺の呼びかけを完璧無視するルビーは、
生い茂る草むらを進み、さらに生垣をも越えていく。
(うわぁ、もう最悪―――……)
その向こう側の大庭園は、王族のプライベートエリアとはいえ、さすがにマズイと思う。
だけど、悲しいかな。
ありがたくないことに、普段はいない警備の者たちが、ちらほら立っているのだ。
(そうか、今……)
イラスーン王国の人たちが視察で宮殿を訪れていることを思い出した俺は、
(どうするよ、俺?!)
と、自問自答する間も、動くと鳴ってしまう鈴の音。
(やばい、やばい、絶対やば―――いっっ)  
女の子なら、パニックになって泣き出しそうになるくらい、俺の心臓はバクバクしている。
「ルビー、ルビー??」 
情けないことに、俺の呼ぶ声も段々弱々しいものになる。
(やっぱ、戻ってセシアに頼んだ方がいいかも……)
そう思った時だった。
何処からか、エキゾチックで甘く官能的な香りが風に乗って漂ってきた。
それはとても危険な芳香で、性欲を催させる媚薬のように俺の体が熱を孕んでいく。

「探しているのは、このウサギのことか?」

しゃがみ込み、木々の間の草むらを探す俺の頭上から、
頭に浸透する、性的魅力に溢れた声が降る。
(……え?)
その声が鼓膜に届くのと同時に俺の心臓が大きく鼓動し、意味不明なまま、
苦しいまでに胸が高鳴ってしまい、
思わず声のする方へ顔を上げると、ヴェール越しに美丈夫な男の姿が映った。
しっかりとした骨格と鍛えられた逞しい体躯、
そして完璧といっていいほど男性的に整っている美貌。
一瞬にして囚われたのは、深海を連想させる、限りなく深く濃い蒼色の双眼。
その虹彩は、まるで皆既日食のように、
放射状に黄金のダイヤモンドリングが輝いているのだ。
初めて見るその美しい瞳に魅せられたように惹きつけられた俺は、
その男から視線を外せられないでいる。

……じっと見つめ過ぎた所為だろうか。
表情を不可思議なものに変えた男が、再び尋ねる。
「違うのか……?」
そうたった一言、尋ねられただけなのに、
その声は身体の芯を甘く痺れさせ、そしてそのままダイレクトに俺の下半身を直撃する。
(な、何なんだよ、これ……)
頭の隅でそう呟きながら、なんとか視線を這わせれば、
確かに男の腕の中にいるのは、探しているルビーだった。
「いえ。その、……ウ、サギです」
お礼を言おうと立ち上がり、その男の顔が近くなった途端、
俺を淫欲に嗾ける、あの危険な香りが一気に強まる。


〜To be continued〜

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Fate 2
- 2008/03/17(Mon) -
太陽が西の地平に傾きかけ、日差しが僅かに柔らになりかけている午後……。
とある青年は、 
持ち前の手入れの行き届いた艶やかな黒い髪をゴージャスなシニヨンに纏め、
美しく整えられた庭に設けられた東屋で、侍女が用意したお茶を嗜んでいた。

美形は美形でも、 
容姿端麗と一言で括れるレベルを遥かに凌駕してしまう絶世の麗人である。
女性顔負けの肌理の細かい肌。
バランスの整っている鼻筋に艶やかに赤く色づいた唇。
そして貴石のように輝く漆黒の瞳。
長く細い睫毛が艶を帯びていて印象深く、繊細な美貌は目が眩むほどである。

そんな彼の膝の上には、 
お気に入りのチェストナット色の可愛いミニウサギの「ルビー」が、
あどけない鼻をぴくぴくさせて、ちょこんと座っている。
寂しさを紛らわせるようにと、マディーナ王女からプレゼントされたこのウサギの首には、
ルビーの頂点に立つという、
稀少価値の高い極濃の大きな『ピジョンブラッドルビー』の首輪がつけられていたのだが、
それを見て、驚いた彼が「ルビー」と命名したのである。

「痛……ッ」
「如何なされました?」
僅かに顔を顰めた籐也の顔を、侍女のセシアが心配そうな表情で覗き込んだ。
「また、ルビーに指を噛まれちゃった」
ふふふ、と少しはにかむように笑った籐也の顔があまりにも美しくて、
見慣れているはずのセシアの視線が思わず固まる。
「……セシア?」
不思議そうな声音で名を呼ばれ、ハッと我に返ったセシア。
「も、申し訳ありません。直ぐにルビーのおやつをご用意して参ります」
慌てたように頭を下げて挨拶し、踵を返そうとした瞬間、
(いけない、私としたことが。大事なことを忘れるところだったわ)
心の中でそう呟きながら、青年に黒いヴェールをかけた。

―――そう、この俺、小塚籐也の容姿は、誰にも見られてはいけないのである。
何故なら、この世界には、 
漆黒の髪と瞳の両者を兼ね持つ者は一人として存在しないからだ。

二年前の某日、激しい頭痛に見舞われた俺は、偶発した不慮の事故に巻き込まれ、
信じられないことに、この世界に飛ばされてきたのだ。

トリップ先の砂漠は、温暖気候に慣れた日本人の俺には厳しい場所だった。
体験したことのない乾燥地帯の暑さで参っているところに、
盗賊団に襲われてしまった俺は、 その場で意識を失ってしまい、
目を覚ましたらハリファという国の第一王女が住む内殿と呼ばれる 
お屋敷のベッドの上だった、 というわけ。
何故そんな場所にいたのかというと、 
偶然通りかかった人物によって助け出されたらしいからだ。
王女付きの護衛騎士の一人である、命の恩人であるその人は、
俺の姿を誰にも見られないように布で包み、王女の元へ連れて来たという。
そして、彼女にいたく気に入られてしまった俺は、密かに王女の内殿で暮らしているのだ。

匿われるよな生活ではあるが、
地位のない俺にはセシアという専属の侍女が宛がわれ、王族と同等な扱いを受けている。
そのため、自分の置かれている生活そのもの自体には不自由や不満はない。
敢えて一つ挙げるとすると、
髪を伸ばし、ドレスを着て、 女性のような格好をさせられていることである。


〜To be continued〜

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Fate 1
- 2008/03/17(Mon) -
……サラ、サラ……

……サラ、サラ……サラ……

(―――何、この音?)

意識が浮上し始めた耳元で、聞きなれない音がする。
(いや、それよりも……)
コクリ、と乾いた俺の喉が鳴る。
「み、水……飲みてぇ」
(駄目だ、暑くって寝てなんか要られない!)
だが、起きようと身体に力を入れた時の奇妙な感じに、思わず固まった。
(……えっ?)
無意識に握り締めた掌を広げると、さらさらな砂が指の間から零れ落ちていく。
(う、嘘だろ―――?!)
目に映ったのは、砂、砂、砂……。陽炎にユラユラと揺れる、何処までも続く砂の海。
そして、雲一つない澄み切った青い空と、燦々と照りつける太陽。
その風景は圧倒的で、それはどう考えても間違えようのない「砂漠」だった。

「マジかよ?!」
(……ってか、ここ……何処よ??)

そもそも、なんでこんな所に俺はいるんだ? と考えた瞬間。
甦ったのは、ホームに滑り込んでくる電車の警笛と、 
鳴り響く急ブレーキを掛ける車輪の轟音。
そして遥か遠くで聞こえる、誰かの「危ないッ」と叫ぶ声と悲鳴……。
思わず、ぎゅっと瞼をきつく閉じた。

俺はこの十七年間というもの、大した風邪も引いたことがない、健康優良児だったんだ。
なのに、学校が終って友達と地下鉄で別れた後、突然激しい頭痛に見舞われて。
ガンガンと、頭が割れるような激痛に、 
俺はとっさに頭を両手で抱え込んで耐えようとしてたんだ。
そんなところに、後ろから何かが身体にぶつかった。
今思えば、それは鞄だったような気がする。
普通の状態なら大したことにはならない接触も、あの状態では過剰に反応してしまう。
力が入らない俺の身体は、踏ん張ることもできないまま前方に押し出され、  
……そのまま線路に落ちた。
だから、考えたくはないけれど、 
きっと俺の身体は電車に引かれてバラバラの状態……なんだと思う。

(―――…ってことは、ここは天国?!)

だけど、天国が砂漠なんて、聞いたこともない。
いや、この状況は天国というよりも、
(……むしろ、地獄??)
突き刺さるように痛い強い日差しは、三十分と経たないうちに、 
身体中の血液が蒸発してしまいそうな感じだし、唇は乾きでひび割れ、 
呼吸をする度に乾燥した熱い空気が、俺の喉を苦しめているのだから。

……それにしても、汗がじわっと出た瞬間に蒸発してしまう暑さは、厳し過ぎる。
どうにかしなければと、なんとか立ち上がろうとした時だった。

遠くの彼方から、何か地響きのような微かな揺れを感じ、後ろを振り返った。
地平線の上に、ゆらゆらと陽炎が揺らめき、その中に黒っぽいシルエットが浮かび上がる。
音と共にその姿が徐々に大きくなってくる頃、  
それが、馬に跨った七〜八人の男たちだということがわかった。
黙々と砂煙を立てながら、こっちを目掛けて走って来ている。
(やった、助かった―――…)
と思ったのは、つかの間で。
頭から黒い布をすっぽり覆った男たちが手にしていたのは、信じられないくらいに大きな剣。

(ヤバイ! 逃げろッ)
俺の頭の中に、警報が鳴り出す。

『ξ×☆γ。Θφ◇δψ※!』

男たちが訳のからない言葉で口々に何か叫んでいる。
捕まったら最後。
下手したら殺されるかもしれないのだ。
「……はっ、はぁ。はぁ……っ」
だが、すでに体力は奪われ、身体は鉛のように重い。
それでも、必死になって走ろうとしたけど、
砂に足が捕らわれて思うように動けずにいる俺の意識は朦朧としはじめ、  
心臓は悲鳴を上げていた。

(……暑い、暑い。体中暑くて、息が苦しくて、つらい)
ああ、これが夢ならどんなに良かっただろうか……。
そう思った数秒後には、周りを取り囲まれ、
四方から幾つもの縄が投げ出さられるのを最後に、俺の意識は遠ざかっていった。


〜To be continued〜

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■ Fate <一途/溺愛/俺様攻め/健気受け/身代わり設定>
- 2008/03/15(Sat) -
□登場人物
       ユリアス......大国イラスーンの若き王。精悍で男前な威風堂堂とした容姿。感情をあまり表に出さない。
       籐也................異世界の砂漠へトリップしてしまった元・高校生。
              二年間という期間限定で、ハリファ王国の第一王女の身代わりをしている。
       ルビー...........稀少価値の高い極濃の大きな『ビジョンブラッドルビー』を首輪に付けている、藤也お気に入りのウサギ。
       ファティマ...ユリアスの側近の一人。 
       ムスタファ...イラスーン王国の宰相であり、ユリアスの異母兄。
       ディアナ.......女官長次官。元ハリファ王国の第一王女(旧姓・マディーナ)

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