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Fate 34
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- 2008/04/25(Fri) -
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兵士に付き添われて、静々と部屋の中へ入って来たのは……。
(……セ、セシア―――?!) 俺は、信じられないほど大きく目を見開いたまま、固まった。 「う……嘘、どうして?なんで、セシアがここにいるの?」 無意識に呆然と呟いている俺の視界は、もうたくさん泣いて枯れていると思っていた涙で滲んでいる。 元気にしていると聞かされていても、いつも思い出すのは、最後にわかれた内殿で、俺を逃がそうとして首を羽交い絞めにされ、苦渋に満ちていた彼女の顔ばかりだった。 「そなたの周りには、信頼できる者しか置けぬ」 そう言ったユリアスに、近くへ来るようにと命令された、部屋の入り口で顔を伏すようにして座り込んでいたセシアは、ゆっくりと面を上げた。 彼女の淡い茶色の瞳は、必至に緩みそうになる涙腺を堪えている。 燭台の炎で揺らぐセシアの陰が間近に迫った時、ユリアスは、抱きしめていた腕の力を緩め、そっと俺を解放した。 再会した喜びと安堵で胸がいっぱいになっている俺は、信じられないものを見るかのようにセシアを見つめたまま、放心したように力が抜けている腰でフラリと立ち上がる。 おぼつかない足で一歩、また一歩進む。 そして、わずかに顔を上げた彼女と視線が重なり合った瞬間、 「セシア―――ッ!」 叫びながら手を思いっきり広げて伸ばした俺は、彼女の華奢な身体をぎゅっと抱きしめて、情けないことに子供のように泣きじゃくっていた。 「これまで通り、否。これまで以上に藤也に尽くすと誓えるか?」 問われた、抱き締めている俺の肩越しから面を上げたセシアは、真っ直ぐな瞳をユリアスに向け、 「はい」 と、迷うことなく答えた。 「わたくしは既に、この身を一生、藤也様の恩為に捧げると、初めてお会いした時に誓っております」 凛とした彼女の声音が澄んだ空気に浸透していく。 一瞬、静寂に包まれた中、 「ならば、後宮での藤也の身をその方に任せるとしよう」 そう紡いだユリアスの表情には、満足げな感情が浮かび上がっている。 「御意にございます」 己を抱きしめてくれている藤也の身体をそっと離し、セシアは崇うように伏して拝礼した。 その様子を見守っていたムスタファが、おもむろに立ち上がると開口する。 「……では、直ちに出立しよう」 (―――えっ…) このカナールの離宮に着いてから、まだそれほど時間は経っていないのだ。 「いっ、今から―――?!」 夜の帳に包まれ、このままここへ泊まるものだと思い込んでいた俺は、驚きを隠せずに慌てて振り返り、そう問いかければ、 「残念ながら、あまり事を悠長に構えている時間はないんだよ」 渋い顔をあらわにしたムスタファがそう答える。 「間もなく、王子達は後宮から離れなければならなくなる時期を迎えるからね」 青い双眸を薄っすらと細めると、どうやら元老院に圧力を掛けている者がいるらしいのだと、俺に告げた。 「五人の中から、一人の正妃を定められない彼らは、今度は、妃として新たに二名の婦人を後宮から上げようと企んでいるらしい」 クククと笑いを零すものの、その表情は研ぎ澄まされ、口元は全く緩まれていない。 「踊らされている上に、そんな一時しのぎの策で近隣諸国と渡り合おうなどと、どこまで我が王家を……」 そう話しはじめたムスタファは、言葉を止めた。 「そのようなことをせねばならぬほど、我が国は落ちぶれても、弱き国でもない」 吐き捨てるように言い放つユリアスに頷きながら、ふう―――…と重苦しい息を吐き出したムスタファは、漸く自分の意思で動き始めた若獅子へ、皮肉混じりな視線を流した。 「元老院と後宮、そして婦人達の祖国との癒着を調べろなどと言う無理難題を、ハリファ王国から緊急用の鷹を飛ばして寄越したくらいだ」 後宮を考えずに政治を動かすのは不可能などと言っている奴らを、一掃するつもりなんだろう?と詰問するムスタファを、フン……っと鼻先であしらったユリアスは、 「聞くまでもない」 短く答えると俺に視軸を合わせ、歩み寄る。 そして俺の頬に手を添え、先ほどまで零していた涙をそっと拭うと、やるせなさそうに薄く微笑んだ。 「……済まぬ」 憂いを帯びた声に、俺の胸がキツンと痛む。 ……わかっているんだ。 そのたった一言の言葉には、いろんな思いが詰められていることに。 だから、 (―――心配いらないよ。俺は大丈夫……) と満面の笑みで返した。 ―――静寂な世界を飾る、神秘的に眩いばかりの大きな月ときらきら輝くあまたの星々……。 その満天の星空の元、馬に跨りカナールの離宮を後にしたユリアスの一団は、 王城のある王都ラトゥシュへ向け、再び白い砂漠を駆けていく。 黎明を迎えれば、四〜五時間ほどで肌を刺すような冷たい空気は、熱風に変わる。 〜To be continued〜 |
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Fate 33
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- 2008/04/24(Thu) -
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(―――へ…?)
何のことだかさっぱりな俺は、目をキョトンさせながら首を傾げ、間抜けな声で呟いていた。 おもむろに頭をガシガシと掻きながら、 「どう考えても、この異様なまでに甘ったるい雰囲気を作り出してるのが、俺の知ってるヤツだとは思えないんだよな」 そう言ったムスタファは、ユリアスの斜め後ろに控えているファティマに視線を投げた。 「なぁ、お前もそう思うだろ?」 問われたファティマも、幾分困ったような表情を見せ、苦笑を漏らしいる。 そして乱れた前髪をおおざっぱに掻き上げたムスタファは、俺の顔を覗き込むように見つめながら続ける。 「大体、君を大事そうに抱えているその男は、目で人を射殺せるって言うくらい冷たい視線を放って、 常に人を寄せつけない雰囲気を醸し出していたし。隙も見せず、与えず、全てのことを無感情な冷めた目で見てたんぞ?」 一度もまともに笑ったとこなんて見たことないしなぁ、と少し呆れたように言う。 もちろん、その男と言うのは、指を指されているユリアスのことだ。 冷たい視線とか、常に人を寄せつけない雰囲気とかは、なんとなくわかる……うんうん。 精悍な面で鋭く目を細めたように見つめられたことがあったけど、あれはちょっとビビッたし、今だって時々、王者として犯し難い威厳を放って、俺に有無を言わせない表情をする。 「それがどうだ?その、冷徹で無表情な男がたった一人の人間を相手に、高揚したり焦燥したりして、一虚一盈してるかと思えば、今は蕩けそうな甘い目をして抱きしめてるし……」 (えぇ―――ッ?!ユリアスが、一虚一盈……?) 意表に出たその吐かれた台詞に、ちょっと気抜けする。 確かに、俺を大切なもののように扱っているということは、ひしひしと感じるようになったよ? (自分で言ってて、かなり恥ずかしいけど……//) と、とにかく穏やかな表情を見せてやさしく笑ったり、壊れ物を扱うかのように、そっと接してくれたりもするし、 恐怖に慄けば、不安が消え去るまでずっと背中を擦って抱き締めててくれる。 ユリアスの力強い腕に引き寄せられ、大きくて温かい胸の中にいると、俺はとても安心して……そして、とっても幸せな気持ちになるんだ。 だから、その手を離したくなくなる。……ううん、違うな。もう離せないんだ、きっと。 それだけ俺の中でユリアスは大きな存在になってしまっているから。 だけど、堂々としているユリアスの感情が不安定に変化しているようには、全然見受けられない……。 「まぁ、アレだ。誰かの為に、自ら進んで動くようなヤツじゃなかったのは確かなんだ」 ムスタファの語る話は、俺の中でイメージされている姿からは遠く感じるもので、不思議に思った俺が視線を向ければ、ユリアスは何故かそっぽを向いていた。 面白くなさそうな声音で、 「ムスタファめ、余計なことを……」 一人呟くように囁いたユリアスは、そう言いながらも、その口元は緩んでいる。 そしてじっと見つめる視線に気づいたユリアスは、俺の顔を見て一瞬驚き、すぐに眉根を寄せると少し困ったような、そしてわずかにはにかむような顔で目を細めると、うっすらと微笑んだ。 前にも見せたことのあるそれは、わかり難いけれど、間違いなく、いつになく動揺して、ちょっと照れている表情なのだ。 その笑顔を見て、俺の胸はトクンと跳ね上がる。 「このまま一生、冷徹で無表情を突き通すのかと心配してた身としては、ちょっと感動しているんだよ」 ムスタファの口は止まらず、さらに爆弾発言が落ちる。 「……信じられないくらい愛されてるんだな」 一気に俺の顔が、ボッと音を立てて火を噴いたように赤らみ、心臓はバクバクと高鳴り、初めて他人から言われたその言葉に、俺はかつてないほどうろたえていた。 それまで、何だかんだで辱める言葉を言うムスタファを容認していたユリアスだったが、俺の様子を見兼ねたように、ふぅっと息を吐くと、口を開く。 「ムスタファ、そのくらいにしておけ」 ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべて、俺達の様子を伺っていたムスタファは、少し慌てたようにコホンと一つ咳払いをして、すぐさま佇まいを改める。 そして、まるで心配するような事はないんだと安心させるような口調で言葉を紡ぐ。 「そんな大切に思っている存在を、片時も離したくないと思っているヤツが、単身で後宮へ放り込むわけないだろ?」 そう言って、ムスタファは指をパチンと鳴らした。 〜To be continued〜 |
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Fate 32
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- 2008/04/23(Wed) -
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何かを吹っ切ったかのように颯爽と歩み寄よった男は、深々と頭を垂れる。
「わたくしは、宰相のムスタファと申します」 畏まるように拝礼した後、失礼を致しましたと一言侘びを入れてから、低く太い声でそう述べた表情は、先ほどとはまるで別人のような真摯な顔つきになっていた。 その様子を静観していたユリアスは、背後にいた俺の腰をさらうように引き寄せて、男の目に触れさせると口を開いた。 「藤也。俺の腹違いの兄、ムスタファだ」 (おっ、お兄さんだったの―――?!) そう心の中で叫んだ俺は、いつの間にか横抱きにされているユリアスの腕の中で、あたふたとともがく。 だって、ユリアスの身内なんだよ? やっぱりちゃんと挨拶したいし、はじめは肝心だもんね。 ……とは思うものの、俺の身体は豪腕な腕にがっしりと抱きとめられていて、膝から降りることすら出来ない。 見上げれは、離れることは許さぬ……と冷ややかな目をして無言に訴える視線と交差する。 仕方なく顔を戻した俺は、慌てて挨拶を返そうと言葉を掛ければ、 「は、はじめまして……こ、小塚藤也ですっ」 緊張のあまり、本名をさらすという失態を犯してしまったのだ。 (ひい゛ぃ―――ぃ!馬鹿バカ、何言ってんだよッ) 真っ青になって、マディーナですと訂正したけど、時は既に遅し……。 し―――んと静まり返ってしまったその場に、恐る恐るユリアスに助けを求めれば、クククッと愉快そうな笑い声が、俺の横から届く。 「本当に可愛らしい方だ」 と囁いた男、もといムスタファが穏やかに微笑みを見せるのと同時に、温かくてやさしく香りに包まれた。 ユリアスのような刺激的で、甘く官能的な危険なものとは全く違うけれど、心を穏やかにするようなこの香りが、ムスタファの放つ特殊なフェロモンなんだと、そこはかとなく感じ取った俺を他所に、ユリアスが口を開く。 「何を焦っておる?」 「え?や、だって俺……藤也って言っちゃったし……」 「その前に、俺が藤也って話し掛けているのを聞いていなかったのか?」 「……ッ!」 (あぁ、もう俺ってば格好悪過ぎじゃん) 折角ちゃんと挨拶して、決めようって思ってたのに……と口を尖らしてぼやけば、 「気にするな。そうでなくとも、どうせもっと前に、俺が藤也と呼んでいたのも盗み聞きしておるのだろ?」 盗み聞き、と指摘されたムスタファは一瞬、水を刺されたようにつまらなそうな表情を見せたが、 「お二人とも、今後は、後宮内にご用意した私室以外では、絶対にその名を口にしないように」 よろしいですな?と宰相という職に就いている、もっともらしい話し方で、口調を辛めて注意を促すと、俺に視線をもどして話を続けた。 「イラスーンの王は、定めにより男児を二人、得なければならないということは、もうご存知ですね?」 俺は、黙って頷いて答えた。 一子は国の名を背負うものとし、一子は後継者が後継者として立てなくなった時のために必要なのだという。 だけど二人目の男の子がなかなか授からなくて、結局五人の父親になったのだ、とユリアスはそう言っていた。 そのことに関してユリアスは、俺に納得して欲しいとか、しろとは言わない。 簡単に受け入れたり、納得できることではないのだ、とユリアス自身がそう思っているからだと思う。 そして、俺はと言えば、ただあるがままを受け止めるしかないのだ。 そうはいっても、その思いはまだ不安定で、ちょっとしたことでも揺らぎそうになってしまう。 「現在、後宮には嬪を含め、一二名のご婦人がおられます」 (―――そ、そんなにいるのっ?!) その人たちとも関係があるのかと、不安になった俺の身体をユリアスが包み込むように、ギュッと力を入れて抱きしめる。 そして、俺の耳元で囁いた。 「……神に誓う」 「え?」 「神に誓って、五人以外の元には通ってはいない」 「え、あ、……うん」 真剣な目で訴えるユリアスの言っていることは、多分本当のことなんだと思う。 それでも、その五人って言うだけでも、既に許容範囲を超えている俺は、落ち着かせるように大きく息を吸い、呼吸を整えた。 そんな俺達をチラッと垣間見た、ムスタファの話は続く。 「その方々全員に気を配られる必要はありません」 問題なのは、と躊躇するかのように一旦言葉を区切ったムスタファに、俺が訊ねた。 「……ユリアスの、五人の子供のお母さんたち?」 わずかに目を見開いたムスタファは、そうです、と短く頷いた。 目下のところ、彼女達の正妃の座を求める戦いは、その五名の中で繰り広げられているらしい。 だから、余程のことがなければ、直接、俺に危害を加えることはないはずだという。 「ですが念のために、後宮に入ったらなるべく目立たず、大人しくしていて頂きたいのです」 なにしろあそこは、陛下以外の男性は立ち入ることが出来ない領域なので、と補足する。 「っそっか、ファティマも駄目なんだっけ……」 と、ただでさえ知らない閉鎖された場所へ入るというだけで、憂鬱になっている俺は、思い出したかのように消沈して呟いていた。 すると、突然何を思ったか、あからさまなほどに大きな溜息をついたムスタファが、 「あーあ、やっぱ、このしゃべり方は疲れるんだよな」 と首を左右にコキコキ鳴らせ、口調を元の荒っぽいものに戻した。 ユリアスも、別段変わった様子も見せず黙認し、ただ黙って俺を抱きしめていた。 そして、ムスタファは柔和な笑みを浮かべると、わけのわからないことを口走る。 「君の存在って、すごいんだな」 ―――と…。 〜To be continued〜 |
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Fate 31
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- 2008/04/22(Tue) -
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「ムスタファ!何故、お前がここにいる?!」
「何故?それをお前が問うのか?」 フンと軽く鼻を鳴らした男は、ふてぶてしそうに言う。 「お前を連れ戻しに来たのに決まってるだろ」 ったく、面倒なことを人に押しつけたまま、ちとっとも帰ってこやしねーし、と不平を零したようにつけ加えて話す。 (え、えっ、えぇぇ―――ッ?!) 俺の頭の中は、驚きで一色に染まっていた。 両腕を前で組むようにして部屋の入り口の壁に凭れかかり、偉そうな態度見せている上背の男は、ユリアスよりも少し年輩そうで、どちらかと言えばワイルド系な力強さを感じさせる。 ぱっと見た外見は、人目を引くような派手さはないが、ユリアスと同じように、自身の持っているオーラみたいなものが、傍らにいる存在たちを惹きつけさせているようだ。 その男は、王者としての貫禄があるユリアスを前にしても全く動じず、敬う仕草も見せないでいるのだから、驚かずにはいられなかった。 (このムスタファさんて、ユリアスとどういう関係なんだろう……) この離宮に来る前、名前だけはチラッと聞いていたものの、予想していなかったインパクトのある人物を前に、藤也は心の中で呟いていた。 「義務や責務だと言い切って、手間のかかる事柄をすべて手際よく処理してきたお前が、何で今回に限って、その言葉を使わないんだ?」 不思議で堪らないな、と言ったその口元は、薄っすらと意味ありげな笑みを浮かべている。 「義務だろうが責務だろうが、そのような言葉は、ただの言いわけにしかならぬ」 口を辛めて言葉を放ったユリアスは、その存在を一瞥した後、ハッとしたような表情をわずかに見せ、 男の視線を遮るように俺の身体を自分の背後に回した。 けれど男にはさほど関心を示さないのか、顔は前を向けず肩越しから、俺を見据えている。 その表情は訝しく、まるで俺を観察するかのように見えてしまうのは、気の所為だろうか……。 「いつからそこにいた?」 ユリアスは眉間に深く皺を寄せ、不機嫌そうな声だけを男に向けて問う。 「さてな。せっかくのお取り込み中だったし、邪魔しては悪いと思ったから、ソコで大人しくしてたが……」 親指を立てて後ろの廊下を指し示した男は、はぁーっと大げさのような大きな溜息をつく。 「だけどあれでは、誤解に誤解を塗ってわだかまりを大きくするだけだぞ」 呆れたように口を開く。 男は、自分の話している相手が見向きもしないことなどお構い無しに、続ける。 「本当にお前って、政務はそつなくこなす癖に、女には弱い……いや、その人限定に弱いのか?」 そう揶揄するような物言いに、 「口を慎めっ」 と、珍しくユリアスが声を荒げて返した。 けれど、俺を見つめたままでいるその表情は、暴言を吐く男に怒りを向けているものではなく、どこか安心してほっとしたような、そして何故か、おもむろに嬉しそうな顔を呈すると、隠さずに口角を吊り上げた。 「大体、あの古に縛られた頑固者たちを、いつまでのさばらしておくつもりなんだ?」 男は大した挨拶もなしで、その長い足を動かして部屋の中へゆっくりと入ってこようとする。 「おかげで厄介事は増えるし、古いしがらみに縛りつけられてるだけじゃないか」 古き仕来りなんぞ、いい加減取っ払えばいいのに何故しない?と、目を鋭く細め、ユリアスに詰め寄る。 「出来もせぬことを、軽々しく言うなと言っておるのだ」 「だからやりもしないで、甘んじているのか?」 そう言った男は、クククッと楽しそうに笑いを漏らす。 「違うな。甘んじているなら、十二神中の至高神の前で婚儀など挙げるわけがないよな」 覚悟は出来たんだろう?と歩みながらユリアスに問う男は、俺の顔を垣間見た途端、ひどく驚いた表情を見せ、ピタリとその足を止めた。 (―――なっ……) 事前に美しいとファティマから聞かされてはいたが、これほどまでに美しい存在を目にするのは初めてだった男は、思わず息を呑まずにはいられなかったのである。 シルクのように光沢のある皇かな黒髪と、貴石のように輝く大きな瞳。 目元は泣き腫らしたためか、かわいそうなほど赤らんではいるが、瞬かせる睫毛は驚くほど長く、そして均整のとれた鼻梁と艶やかに赤く色づいた唇が魅了してやまないのだ。 美形には見慣れているはずなのに、目の前の彼は比べものにならないほど美しく思え、言葉が出なくなった。 ユリアスほど蓬莱人に執着していたわけではないが、それでも王家で語られている伝説の存在を前にして、感情が高揚しないわけがなかった男は、ぼそりと言葉を漏らしていた。 「どうやら、俺の香には反応がないらしいな……」 (まぁ、ここで妙な反応を示されて、ユリアスの逆鱗に触れるよりかは断然ましか) その声は、藤也には届かない小さなものだったが、しっかりと聞き取っていたユリアスは、融然と微笑んだ。 〜To be continued〜 |
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Fate 30
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- 2008/04/21(Mon) -
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重苦しい空気が包み込み、心臓が何かで刺されたようにズキリと痛みを訴えている。
覚悟してたとはいえ、それでも心が激しく混乱し、動揺してしまう。 その込み上げてくる感情を持て余す俺は、ただひたすら、細かに震え続ける拳をぎゅっと握り締めていた。 「……汚らわしいと思うか?」 ユリアスは、自分を貶めるような言葉を使って俺に問う。 肩が慄き、キリキリと軋む心に涙が滲む。 (―――わ、からない……よ) 「許せぬか……?」 そう問われ、声が詰まった俺が微かに傾けば、眦から堪え切れなくなった涙が一気に溢れ出す。 (やっ、やだな。格好悪く泣かないって決めていたハズなのに……) 心の中でそうひとり言を漏らしながら、手の甲でゴシゴシ涙を拭く。 けれど、ひとたび堰を切って流れ出してしまった涙は、拭っても拭っても収まらず、ハラハラと止め処なく零れ落ちていく。 「……済まぬ、藤也」 苦しそうな声音で謝るユリアスは、 「話せば、辛い思いをさせるとわかっていたが……」 そう言って深く息を吸い込み、重い息を静かに吐き出すと、同じに傷つかせてしまうのなら、他人ではなく自分の口から聞いて欲しかったのだ、と続けた。 多分、今の涙でぐちょぐちょになっている俺の姿を見ているユリアスも辛いんだと思う。 だって、ギリリッていう噛み合わせた歯軋りの音が伝わってきてるから……。 それがわかるから、余計に俺の胸は締めつけられていく。 苦しくて、悲しくて……気づけば、ユリアスの逞しい胸に額を押し当てていた。 ―――…あの後、 「そなたには、嘘も隠し事もするつもりはない」 だから、包み隠さず正直に話す……そう言って、開いた口から紡がれた言葉は、予想はしてたとは言え、やっぱりショックで、ちゃんと全部話が聞けてたか……それすらわからない。 ユリアスには、母親違いの五人の子がいることと、その五人の母親が後宮で暮らしていること。 元老院という機関が、その中から一人、正妃を選出しようとしているということ。 けれどどの国も軍事力は大きく、総合的な国力にもあまり差がないことや、それぞれの祖国が皆一様にして、イラスーンと有益のある国交をしているために、政治上の駆け引きが織り成す諸問題に頭を悩ますことになり、すぐさま一人に絞り込めずにきているらしい。 そして、その国力の大きさは、そのまま後宮の中でも反映されているという。 ユリアスが言っていた、マディーナ王女の立場が悪いというのは、ハリファが何の利益もない小国であるため、肩身の狭い思いを強いられる……ということなのかもしれない。 そして彼女達は、祖国のためにより良い収益を得ようと、たった一つの空席しかない“正妃”の座を狙って、水面下で争い続けているのだという。 他にもいろいろ言ってた気がするけど……。 そもそも、お国事情うんぬんという問題がなかったとしても、それ沿おうのために作られた後宮があるのに、女性関係とか、何もないって言う方がおかしいよね? そう頭では、理解しているんだけど……ただ、心がどうしても着いていかない。 「……藤也。俺が嫌いになったか?」 俺は言葉に出来なくて、唇をギュッと噛みしめながら、違う、と首を横に振った。 嫌いになれるのなら、こんなに辛い思いをする前に……。 ―――そう、多分、後宮の話を聞いた時に逃避していたはずだ。 ユリアスは、俺に触れてもいいかと許可を求めた後、嗚咽が収まるまでずっと俺の背中をやさしく撫でていた。 静かな沈黙が流れ、落ち着きを取り戻した俺は、薄く口を開いた。 「そ、その五人の人を……あ、愛してるの?」 不安めいた色の混じる俺の声は、まだ微かに震えている。 「……愛か」 そう短く呟くと、 「そんなことすら、考えたことはないな」 ひとり言のように囁いたユリアスは、悲しそうに笑う。 じゃあ、どうして……と詰め寄りそうになった瞬間、やさしい香りが流れ込んでくる。 (―――あれ…?) と思ったのとほぼ同時に、ユリアスよりも、さらに低く太い声が響いた。 「はっきり言ったらどうだ?義務と責務を果たしただけだと……」 〜To be continued〜 |
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Fate 29
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- 2008/04/20(Sun) -
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静けさを取り戻す頃、ユリアスは俺を抱き上げるとそのまま足を組んで楽な姿勢で座った。
そして身を少し屈めると、俺の唇に触れるような密やかなキスを交わす。 けれど、いつもと違う陰りを漂わせている青い双眸に見据られ、 「そなたに、話しておかなければならぬことがある」 重たそうに開いたユリアスの口から、そう告げられた俺の咽がゴクリと鳴る。 「後宮入りしなければならぬことは、聞いているであろう?」 (あぁ、やっぱり……その話なんだ) 俺は、バルディア山中にあるアラヤ神殿へ向かう前、ハリファが提示した同盟の条件の一つに、“王女の後宮入り”があると聞かされていた。 ハリファ王国には、後宮というものは存在していない。 だからどういうものなのかと、粗方の説明をファティマから教えてもらっていたのだ。 あれから数日が経ち、それなりに覚悟は出来ていると思っていた。 だけど、実際にユリアスの口から話されると動揺し、かなり堪えてしまう。 「……う、うん」 かろうじて、俺は返事を返した。 「出来ることなら、あそこへは入れたくなどない」 そう言葉を吐き捨てるように言ったユリアスは、ゆっくりと瞼を閉じ、そしてまるで自分を落ち着かせるかのように大きな呼吸をすると、再び目を開いた。 「ハリファ王国は、近隣諸国の中でも一際小さい。それゆえ、我が国に置いてのマディーナ王女の立場は、極めて悪いのだ」 どういうことなのかと、首を傾げれば。 「後押しする者がいなければ、そなたを後宮から出すことができぬ」 (―――あ、あれ?) その言葉に驚いた俺は、ユリアスの後ろに控えているファティマに視線を投げた。 だって、一度入ったら死ぬまで出れないって教えてくれたのは、ファティマだったから。 「後宮から出られる……の?」 そう問いかけた俺の顔は、頤をぐっと引かれてユリアスの方に戻される。 「そなた、婚姻の儀を執り行ったのを忘れたのか?」 不機嫌そうな声音で問われた。 ―――忘れるわけがない。 だって、ユリアスのことが好きだって気づいた、大切な日だし、それに……。 (すっごく幸せな一日だったんだもん//) そう心の中で囁いた顔は、きっと真っ赤になっているだろう。 思い出に浸って舞い上がっている所に、 「アラヤ神に誓ったのだ。神の前で妻となった、そなただけを一生愛し抜くと」 なんて言われたら、俺は単純だから、もう胸がじぃ―――んとしちゃって、感動の言葉すら浮かばない。 「王の伴侶となったそなたを、後宮になど住まわせて置けるわけがないであろう?」 真摯な、真っ直ぐな視線で見つめながら、そう俺に問い、後宮から出る方法は一つだけだと語るユリアスの言葉は、高らかに紡がれる。 「そなたを正妃に迎える」 と。 だけど、俺は……薄々感づいてはいたんだ。 わざわざユリアスが、この離宮に寄ったのには、それだけじゃないんだということを。 ―――そして悲しいまでに、その厭な直感は当たってしまうのだ。 〜To be continued〜 |
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Fate 28
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- 2008/04/19(Sat) -
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―――歳月を経て使い込まれ、深みと落ち着いた輝きを増した美しい絨毯の上で、
いつになく落ち着かない藤也は、緊張をあらわにしながら、差し出された砂糖がたっぷり入った甘い紅茶を啜っていた。 カナールの離宮に着いた途端、姿を消したユリアスは、一向に戻る気配すらなかった。 ファティマが言うには、砂漠で会ったワディラムと言う人と雑談をしているらしいけど……。 そのファティマも、なかなか戻らないユリアスの様子を見てくると行って部屋を出たまま、帰ってこないのだ。 なにより、ここへ来る前の、明らかにおかしかったユリアスとファティマの二人の様子が頭の隅に引っかかってしまい、俺はお気に入りのウサギのルビーと戯れていても、全然楽しくなれずにいた。 そんな俺の前に、突然二人の女性が現れたのだ。 四、五〇代ぐらいの落ち着いた雰囲気の、繊麗な彼女の名前はユリアナと言うらしい。 華美ではないけれど、上質で清楚な出で立ちが、彼女の美しさをさらに際立たせているようだ。 そのユリアナが纏う気稟は、どことなく凛として気高く、明らかに高貴な身分であることが伺える。 上品な物腰で優雅に一礼をした彼女は、穏やかな笑みを浮かべながら、ドレスの裾を掴んで少し持ち上げると、おもむろに俺の前に座り込む。 とても華やかで、けれどやさしい表情の彼女の微笑みは、何故かユリアスのはにかんだ時の顔と少し重なって見えるのは気の所為だろうか。 傍らに控えていた、もう一人の女性もそこはかとなく気品を漂わせている。 その彼女が、手馴れた手つきでグラスに温かい紅茶を注ぎ入れ、どうぞ……と、これまた引き込まれるような温かい微笑を零しながら差し出してきたのだ。 どうしてこの世界には、こんなにも美しい人が多いのかと、度胆を抜かずにはいられない。 「こんなにも可愛らしい方を、一人で待たせるなんて……」 少し呆れたような、そして諦めたようなムードを醸し出しながら、 「退屈でしょう?」 と、鈴を転がすような声音で話しかけてきた彼女たちと、俺はたわいの無い話をすることになった。 その横で、かじっていた人参でお腹がいっぱいになったらしいルビーが、ピョコンピョコンと跳ねている。 そうして……どのくらいの間、彼女達と時間をつぶしていたのだろうか。 ざわざわと廊下の方が慌しくなり、手にしたグラスを置いて近寄る足音に視線を向ければ、つい先ほどまで、近くにいたはずのルビーを捕らえたユリアスが、そこにいた。 「すまぬ、思ったより時間がかかってしまった」 待ち望んでいた存在に、俺の心は一様に明るくなる。 「もう、終わったの?」 嬉々とした声で問われたユリアスは、 「ああ」 と、一言答えると、手にしたルビーを、後から着いて戻ってきたファティマに手渡した。 すぐさま、室内にいるユリアナ達に気づいたファティマは、頭を伏して拝礼し、一方の彼女達も瞬時に席を空け離すとユリアスに一礼する。 気がつけば、その様子を呆然としたように見つめている俺の元に、再びユリアナが歩み寄っていた。 「今度は、正式な場でお会いしましょうね」 そう言って俺の手を温かく柔らかな両手で包み込んだ彼女は、 「あの子の事、よろしく頼みます」 俺の耳元に顔を近づけ、そう囁いたのだ。 そして、カチンカチンに固まって、 「ユ、ユ、ユ………」 (ユリアスのお母さん―――ッ?!!) と、声が出ない俺に嫣然とする微笑みを残し、身を翻してその姿を廊下の奥へと消して行った。 ―――それがユリアスのご母堂であり、この離宮の主でもあるイラスーン皇太后とのはじめての邂逅だった。 〜To be continued〜 |
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Fate 27
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- 2008/04/18(Fri) -
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ユリアスの命を受けて、王城からの迎えの一団の進行を止めて走り戻ってきたファテマは、お伺いを立てるべく、再びユリアスの元にいた。
ユリアスの腕の中にいる、錯乱していた藤也も、すっかり落ち着きを取り戻している。 その様子に、ホッと胸を撫で下ろした刹那、頬には赤々と引っかかれた痕が残っていることに気づいたファティマは、顔色を変えた。 「―――ユリアス様、その傷は?!」 もちろん、藤也がつけたものであることはわかっている。 わかってはいるが、未だかつて無礼を振舞った者に仕置きを受けなかった者がいないことを熟知しいるファティマは、 気が気ではなかったのだ。 けれど、そんなファティマの心配を他所に、 「あ、あの……ごめんなさい。俺、引っかいちゃって……」 痛いよね?と、藤也は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ユリアスの頬に手を伸ばし、そっと傷に触れている。 そしてユリアスはと言えば、自分の頬に触れている藤也の指の上から、大きな掌を重ねると、 「……大事無い」 そう短く答え、抱きしめている腕でトウヤの肩越しをやさしく撫でながら、 「そなたの受けた傷に比べれら、こんなものは些細なものだ」 と苦笑しているのだ。 その中睦まじい、微笑ましい二人の姿は、心の底ではそこはかとなく予想は出来ていたものの、 実際に垣間見てしまったファティマは、自分の用件を忘れてしまうほど、驚愕と安堵の入り混じった複雑な心境で立ち尽くしていた。 ―――が、瞬時にいつもの自分を取り戻すと、ユリアスに向かって口を開いた。 「先ほどの者の中に、ワディラムがおりまして……お話したいことがあると言っておりますが」 如何しますか、と返答を求めるファティマに、 「……ワディラムか」 ぼそりと吐き出し、視線を藤也から外したユリアスの眼光は、冷たいく威厳を放つものに変わっている。 後宮の、わがままな寵姫たちが起こす、尽きない揉め事に嫌気をさしたユリアスは、 半ば押しつけるような形で、全権を宰相であるムスタファに委ね、気分転換を兼ねてハリファ王国の視察に加わったのだ。 「ワディラムを寄越すくらいだ。ムスタファの奴め、さぞや、カリカリしておるのであろうな」 クックックッと、その様子がわかるかのように軽い笑いを零す。 「ええ、それと……」 声を潜め、ちらりと腕の中にいる藤也を見遣ったファティマの言葉は止まる。 その仕草だけで、言わなくとも大方のことが知れてしまったユリアスは、 「わかっておる」 頷きながら短くそう言う口にすると、藤也の前ではその先を話すことは許さぬと、という無言の視線を放った。 一旦、藤也に視線を戻したユリアスは、静かな、けれど深い呼吸をつくと、再びファティマに視軸を戻す。 「ファティマ。このまま、カナールへ向かう」 「カナール……の離宮ですか?」 予想していなかった命令に、一瞬目を見開かせたファティマは、確認するために問い返していた。 今いるこの場所は、目指す王城とは目と鼻の先の距離なのだ。 しかも、もうこれ以上は執務から離れることは出来ないと、婚儀も簡略化したくらいなのに……とファティマは、首を傾げる。 だが、カナールはユリアスに取っては特別な場所であることを理解している彼は、部下を呼びつけると、離宮へ先に向かわせた。 ユリアスは頭の片隅で、事前に話しておこうと思っていたことがあったのだ。 黙っていても、王城に着きさえすれば、否応なしに藤也の耳に入るだろう事柄を―――…。 どうせ耳に入る話とは言え、あることないことまで聞かされれば、たとえ信じないと思っていたとしても、傷つかないことはないのだ。 それが心根が真っ直ぐで、やさしい藤也なら尚更であろう。 そして、それが大切なことであればあるほど、自分の口で話さなければならないのだ、とユリアスは思っている。 「……いいの?お城、空けても?」 物思いにふけるユリアスを、不思議そうな顔で見つめながら藤也が囁く。 「戦を控えているわけでもあるまいし、一日や二日、戻る日が伸びようと問題はあるまい」 穏やかな笑みを浮かべると、藤也を安心させるように、然もや何でもないように話す。 出来ることなら片時も離さず傍らに置き、大切にして、幸せにしたいと切望するユリアスは、目を鋭く細め、 王城のある方角を人知れず睨めると、駆ける馬の手綱を操ると腹を蹴り、鼻先をカナールへ向けた。 〜To be continued〜 |
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Fate 26
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- 2008/04/17(Thu) -
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「や……いやぁっ!離して、離して―――ッ!!」
自分を力強く抱き留めているユリアスを、あの時の頭から黒い布をすっぽり覆った男たちと思い込んで錯乱する藤也は、恐怖から必至になって逃れようと身をもがいていた。 いくら強靭な腕で身体を縛められていても、馬上で暴れるのは危険だと、いつの間にか取り囲む込むように集まった兵士たちは、ハラハラとしながら見守っている。 「―――藤也、俺を見ろ」 だが、頭を暗雲に振り、手足をばたばたと動かしてもだえ苦しんでいる藤也には、ユリアスの声すら届かない。 「……ッ」 片腕をわずかに離した間に、激しく動かした細い指先が頬をガリッとかすめ、強く引っ掻かれて痕を残す。 この世界では、隙や弱みを見せるわけにはいかないのだ。 大国になればなるほど、王は絶対的なものでなくてはならない。 それ故、軽ければ国外追放で済むが、王を傷つけたものは重罪に科せられるのである。 実際、先代の王であったユリアスの父親は、誤って手をすべらせて、花瓶を落として割った女官を手打ちにしている。 王を傷付けても許される、ということになれば、民への示しがつかなくなる……というのが、その理由だ。 けれど頬がみみず腫れになろうが、そんなことには気を取られないユリアスは、敢えて蓬莱人にだけ効くという甘い香を放ち、藤也の後頭部の髪を鷲掴みにすると後ろへ引き、強引に顔を上げさせる。 無理やり上を向かされたことにより、うっすらと開いた、強張っている唇を塞ぐと、宥めるように舌先で感じやすい粘膜をくすぐっていく。 すると、すぐに香りによってもたらせる快楽が、藤也の恐怖心に取って代わリはじめる。 さらに口腔内を柔軟に動き回る舌先が、藤也を甘く揺り動かしていく。 「……ぁ……」 ビクッと、大人しくなった華奢な身体が小さく跳ね、甘い声音が零れる。 ユリアスは、力が完全に抜けた藤也をやさしく抱き留めながら唇を強く吸い、キスを繰り返す。 「―――ユ、リアス…?」 突然、開けた視界一杯に端整な男の顔が広がった。 目と目が重なり合い、俺の心臓はドッキ―――ンと痛いほど大きく跳ね上がり、忽ちに心が乱れていく。 「ああ、俺がわかるな?」 そう問われて、俺はうんうんと首を縦に小さく動かして、無言で頷いてみせた。 「もう大丈夫だ……安心しろ」 俺が傍にいる、と頬をやさしく滑られながら囁き、青い双眸が俺を温かく包み込むように穏やかな笑みで見つめている。 それは、些細なことだったかもしれない。 だけど……この腕の中にいれば、もう、過去の出来事に苛むことなどないんだ。 不思議とそう思ったら、安堵感と幸福感とで涙が零れ落ちそうになる。 「泣くな―――…」 少し戸惑った眼差しで、そう言われると、余計に涙腺が緩んでしまう。 けれど、そう言って俺の頭をぐっと自分の胸元に押さえ込むように寄せて、ギュッと抱きしめるユリアスの身体は、かすかに震えていた。 お互いに抱きしめ合い、漸く落ち着きを取り戻した頃、俺はパニックの原因になった、二年前にこの世界へ飛ばされた時に体験した、悪夢のような出来事を話した。 ユリアスは、黙ってじっと俺の話しに耳を傾けていたが、見たこともなかった大きな剣を振り回しながら俺を取り囲み、四方から幾つもの縄が投げ出さられるのを最後に意識を失ったと言うことを聞いた途端、 「クソッ!」 と、らしくない言葉を吐き捨てた。 ギリリと歯軋りを立て、奥歯を噛みしめたユリアスは、 (もっと早く巡り合えていたのなら、そんな思いをさせずに済んだものを……) ―――と、心の底で出会えなかった自分の運命を強く恨まずにはいられなかったのだ。 〜To be continued〜 |
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Fate 25
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- 2008/04/16(Wed) -
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広大な、白いシエナ砂漠を走り初めて三日目。
この東領地を抜ければ、目指す王城のある王都ラトゥシュに到着する。 太陽神アラヤを信仰する国の王たるユリアスは、駆ける馬の足を止めるとおもむろに振り返った。 鮮麗な藍青色が徐々に薄くなり、ちょうど東の地平から真っ赤な太陽がゆっくりと昇ってくるところだった。 その、美しい砂漠の夜明けを目に入れると、かすかな寝息を立てながら今はまだ夢の中にいる、腕の中の存在を愛おしそうに見下ろす。 やっと心まで手に入れることができたという充足感が湧き上がり、知らず知らず口元に笑みが綻び、胸が熱くなるユリアスはとても穏やかだった。 滅多なことでは表情を変えず、冷たく突き刺さるようなオーラを醸し出している彼に、安らかでやさしい笑顔を作らせる者は、他にはいない。 それゆえ、ユリアスにとって、その青年がどれほど大きく占める存在なのかと言うことが言わずと知れるのだ。 今はまだ無理だが、いずれそう遠くない将来、王の隣に肩を並べて立つだろう、ユリアスにしなやかな身体を預けている細身の美青年を、命に代えても守らなければと、そう誓いを立てるファティマがいた。 緩やかな砂丘の陰で、砂が揺れ動き、白馬が砂の斜面を一気に駆け降り始めると、その後に続く男たちは、漆黒の套衣を一斉に靡かせて続いていく。 ―――ふっと意識がもどり、ゆっくりと覚醒する。 でも瞼は重たく、寝足りない俺は眠たくて、目はなかなか開けられない。 けれど、耳元でトクントクンと心地よい心音が聞こえ、安心するようにその温かみに縋りついた。 「……藤也?」 穏やかな声音が頭上から降り注ぐ。 アラヤ神殿で結婚して、その後、ユリアスに抱かれて……愛してるって言われて……。 初めて好きっていう気持ちに気づいた俺。 (―――もし、これが夢だったとしたら……) なんか、幸せ過ぎて不安になった俺が黙ったまま、ギュッと縋りついている腕に力を入れれば、顔を覆うヴェールが、落ちてきた大きな掌でめくり上げられた。 そして、身を少し屈めたユリアスの柔らかで形のいい唇が俺の唇と重なり合う。 チュッという軽い音を立てて唇を離したユリアスに、身体をぐっと胸元に引き寄せられて、強く抱きしめられれば、不安も消し飛んでしまう。 だが、そんな甘い雰囲気は、偶然視界の隅に捕らえたものによって、打ち壊される。 自分達に近づいて来る、巻き上がる砂塵を垣間見た瞬間、二年前の恐ろしく怖かった情景と記憶をはっきりと思い出した俺は、フラッシュバックを起こし、身体中の血液が引いたように冷たくなり、パニックを起こしかけていたのだ。 いち早く異変に気づいたユリアスが、不可思議に俺の名を呼ぶ。 「藤也……っ?!」 少し慌てたような声音が辺りに響き、その声に、手綱を引きしぼって馬を制御したファティマが、すぐに駆け寄る。 「如何されましたか!」 見れば、ユリアスの腕の中にすっぽりと包まれた藤也の顔は、血色をなくし、酷く顔色が悪い状態だった。 そして華奢な身体は、可哀そうなほどガタガタと振るえている。 片時も王の傍を離れず、仕事中はユリアス以外のことには全く見向きもしないイスファンでさえ、チラリと藤也を見遣り、気にかけている様子だ。 ほんの少し前までは、異常は微塵にも感じられなかったことに、驚きを隠せずにいるユリアスは、 「一体、どうしたと言うのだ?」 と、問いかけながら、震える背中をやさしく摩り続け、注意深く藤也を見つめる。 「……怖い」 消え入りそうなほど小さな声が、ユリアスの耳元へ届いた。 「何が怖いのだ……?」 だが、藤也はだだ怖いと言うだけで拉致が明かない。 そして次第に走りよる蹄の音が大きくなる頃、 「嫌―――ッ、逃げなきゃ!」 そう叫んだ藤也は、ユリアスの腕の中で暴れ出した。 尋常でない藤也の様子に、一番慌てたのはファティマだった。 「医師を此れへ!」 珍しく声を荒げ、部下に命じたものの、 「ええい、何をもたもたしているのだッ!」 そう罵声を上げ、自ら動こうと馬の腹を蹴ろうとした時だった。 「ファティマ、医師はよい」 何かに気づいたらしいユリアスは、振り返ったファティマに、それよりもアレを止めて来いと顎をしゃくる。 視線を移せば、もくもくと砂塵を巻き上げてこちらを目指している、王城からの使いの者たちの姿。 皆目検討はつかない。 けれど、主の命令には忠実に動くファティマは、同胞を制止させるために馬を走らせた。 〜To be continued〜 |
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Fate 24
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- 2008/04/15(Tue) -
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「ユ……ユリアス?」
恐る恐る不安げに横へ顔傾け、見つめ返した瞬間、 「ぅ、んんっ……んぅ」 俺の口元は、熱を含んだユリアスの唇に塞がれていた。 キスを交わしては唇を離し、顔の角度を変えてはまたキスをしてくる。 そうやってどの位、口づけを交わしていただろうか。 不意に寝台に突っ伏している右膝を手に取ったユリアスは、ぐっと持ち上げ、俺の身体を反転させる。 「ひゃっ、あぁぁ……っ!」 繋がったままの状態で、強引気味に身体を仰向けに反された俺の口から、刺激に反応した艶かしい声が漏れた。 燃えるように熱い楔で回転するように内壁を擦られた身体は、一気に駆けめぐった快感に籠絡される。 「……ユ、はぁぁ…ぁっ、ユリ……アス……」 じれったくてもどかしい俺は、隠さずにやわやわと腰を揺らす。 そんな淫猥な姿をうっとりするように上から見下ろしていたユリアスは、俺の頬に触れ、再び口を開いた。 「……愛している」 地位や名誉や持って生まれた王者としての資質はもちろんのこと、その美しく威風堂堂とした容姿をはじめ、おそらく全ての事柄において郡を抜きに出ている存在に、愛を囁かれて何も感じない人はいないだろう。 大げさではなく、普通の状態でも人の心を引き寄せ、惑わせるフェロモン垂れ流し状態の最上級男に言い寄られれば、きっと女の子なら間違いなくイチコロだ。 切なく、そして甘くほろ苦いような思いに胸をキュッと締めつけられた俺の瞳から、ハラハラと涙が零れ落ちていく。 次から次へとあふれ出す涙を指先で拭い取りながら、ユリアスは困ったような表情で、戸惑った瞳を向けている。 「何故に泣く?」 (―――あれ。何で、俺……泣いてるんだろ) 自分でも、何で泣いていているのかわからなかった……。 涙に滲む視界に映る、ユリアスの姿。 そして、切なくて苦しかった胸の奥がじんわりと温かくなり、まるで女の子を好きになった時みたいにドキドキと逸鳴る鼓動。 (ああ、そうか。俺、ユリアスに恋してるんだ……) そう気づいてしまえば意外に呆気ないもので、今までもやもやしていた心のわだかまりは消え失せ、自然と顔がほころぶ。 熱く疼き続けている身体を持て余しながら目を閉じた俺は、ふぅっと短い息を吐き出した。 そしてゆっくりと瞼を開けると、一途なまでに熱く俺を求める視線に目を合わせ、 「…………き……」 けれど、やっと声に出して囁いた声は、消え入りそうに小さく、ユリアスには届かない。 「何だ……?」 首を傾げ、不思議そうに俺を食い入るように覗き込む姿に、乙女のようにドキドキと胸をときめかせながら、苦笑を漏らす。 「……好き。俺も、ユリアスが好きだ」 そう告白すると、驚いて目を大きく見開いている深く青い双眸へ、広げた両腕を差し伸べる。 すぐに、鍛えられた肉体が覆いかぶさり、俺の唇を奪う。 そして一旦離すと、今度は俺のえり首に顔を埋め、強く吸い上げていく。 「ぁ、っ……んんっ……」 たったそれだけのことでも、辺りを充満させている濃密なまでの特殊な甘い芳香に包まれている身体は、歓喜に打ち震える。 ユリアスは、俺の片方の脚を自分の肩の上に乗せると、激しく腰を使い始めた。 「あ…っ、ぁっ、あぁぁ……っ」 途端に、待ち望んでいた快楽の波が身体の全身に襲い掛かる。 (……好き、ユリアス……) そう思いながら、ユリアスの腕にしがみつく。 そんな俺を抱き込み、弾ませた腰をぐっと一際深く挿し抜かれ、 「ひっ、あぁっ……ユ、ユリアス―――…ッ!」 目の前が真っ白になって慟哭した俺は、恋しい男の名を呼びながら果てた。 それでも一向に静まる様子は無く、まだ足りないと飢えたように訴える熱い腰がしなり、 「あ……あぁっ、……ユ―――はぁ、ぁ……」 求めるように甘い喘ぎ声が零れる。 一方、きつく締めつけられ、ほぼ同時に達したユリアスの自身も瞬く間に膨れ上がり、脈々と脈動していた。 部屋の燭台の炎が妖しく揺らぐ中、二人は、尽きることのない欲望を求め合う。 そうして尽きることがない甘く濃密な情交に、明け方近くまで艶かしい声が止むことはなかった……。 〜To be continued〜 |
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Fate 23
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- 2008/04/14(Mon) -
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敏感になった秘処に、長い指がクチュッと音を立てて沈み込む。
「あっ!あぁ……っ」 その違和感に無意識にその指を握り締めてしまうと、ユリアスは俺の昂ぶりをそっと握り、撫でるように押し上げる。 ゆるゆると扱かれているうちに、次第に膨れ上がった先端から透明な蜜があふれ出し、身体中を疼かせる熱に翻弄された俺は、与えられる快楽に没頭していく。 根元まで差し込まれていた指が大胆に動き出す。 デリケートな内壁を必要以上にこね回わされ、飢えて蕩けきったその場所は、強く突きあげて満たしてくれる熱くたぎったモノが欲しくて堪らなくなっていた。 もどかしく下肢を揺すっていた俺は、思わず口走ってしまう。 「いやぁ―――っ、ユリアス。も、願っ……」 悲鳴にも近い上擦ったあられもない初めての欲求に、ユリアスが背後で密やかに笑った気がした。 そして間を置かず、俺の身体を貫き、征服する猛々しい楔が押し当てられ、あっ……と思った瞬間、衝撃が走り抜ける。 「ひあぁぁ―――ッッ!」 その強烈までの圧迫感に、一瞬息が詰まる。 「…っく!」 すぐにでも腰を律動させたいユリアスは、己の楔を締めつけられて短い声を吐き出した。 けれど、波のように徐々に伝播して動く肉壁に、 「すごいな。俺に纏わりついて、放そうとしない……!」 陶然と呟くと、しばしの間、甘く締めつけてまったりと蠢く、その極上な身体を堪能する。 そして大きく一杯までに開かされた窪みが、尊大なまでに膨らませた楔の大きさに馴染む頃。 強靭な腕に痛いほど掴まれた腰を、激しく前後に揺すられ、攻められて揺さぶれる度に、悦楽に支配された口元から甘い喘ぎ声が、止めどなく零れていた。 肉感的な姿に獣性を刺激され、興奮しているユリアスは、歯止めが効かずに激情のまま動き続ける。 その抽送と共に押し寄せる、あまりにも深くて熱い官能の波に、藤也は自分の細い指をキュッと噛みしめてしめて耐えようとする。 そんな俺の声が口腔に篭り、その姿に気を取られたユリアスは、無理やりに掌を引き離し、 「……存分に啼いてみせろ」 と、尊大な口調でそう言い放つと、たぎる楔をぎりぎりまで引き抜き、そして深々と一気に根元まで挿入する。 「やッ、あっ……ああぁぁ―――ッ」 突き上げられた拍子に背中を大きくしならさせた俺は、硬直したまま快楽の証を迸らせていた。 その締めつけに自身の欲望も持って行かれそうになったユリアスは、一瞬、息を詰まらせたものの、藤也の脈打つ吐精中にも、滑らせている腰を止めようとはしなかった。 「やっ、いやぁ……ああぁっ、……動かないで―――ッ!」 達っしている状態の内部に次々と押し寄せる、強くて激しい快感に順応できず、俺は頭を強く振りながら悲鳴を上げた。 その刹那、ブルッと身体を震わせるようにして奥処に熱情を解き放ったユリアスは、俺の背中に覆いかぶさってくる。 そして、ハァハァと荒い呼吸を続ける俺の両掌の上に掌を重ね、ギュッと握りしめた男は、熱く濡れた声で切なそうに口を開く。 「藤也。そなたを……愛している」 それは、あまりにも突然すぎた突拍子のない告白だった。 意表をつかれた俺は、吃驚して言葉すら浮かばない。 けれど、無性にじーんと胸を打たれ、反射的に緩んでいた涙腺から涙がじんわり滲み出す。 〜To be continued〜 |
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Fate 22
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- 2008/04/12(Sat) -
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女官が慌てて扉を開いた部屋は、とてもシンプルな作りで、寝台が一つと、その傍らに水差しなどが置かれた小さなテーブルがあるだけだった。
それだけで、何のために用意された部屋なのかが、おのずと知れてしまう。 欲情しているユリアスに、性急なまでにも押し倒されると思った俺は、衝撃に備えてきつく瞼を閉じた。 けれど、その衝撃のかわりに与えられたのは、寝台のかすかに軋む音だった。 違和感に目を開けば、寝台に腰掛けるように下ろされている自分と、目線を合わせるように肩膝を着けているユリアスの姿が視野に入る。 彼は、無意識にびくついていた俺の掌を取ると、うっすらと口を開いた。 「私が怖いか?」 そう俺に問うユリアスは、眉根をきつく寄せ、必至にあふれ出そうとする己の欲望の香りを押さえ込んでいる。 (……怖い、のだろうか?) 何故か即答出来ず、答えにつまづいてしまった俺は逡巡するように目線を落とし、自分の左手に注いだ。 その指先は導かれたまま、ユリアスの口づけを受けている。 そして俺をじっと見つめる視線に、わずかに目線を上げれば、熱を孕んでいる紺碧の双眼と交じり合う。 けれどギラギラとさせながら俺を求めている瞳は、相変わらずの異彩を放っているものの、何処かいつもと違っている。 そう、まるで俺の許しを請うかのような……そんな風に俺の目には映った。 あれほど毛嫌いしていた香りさえ、不思議と拒絶する気持ちが薄らいでいる自分に驚きは隠せない。 だけど、男に屈服させられ、蹂躙されることに抵抗が無くなったわけではないし、嬌声を上げさせられている艶かしい姿を想像するだけで沸き起こる羞恥心には、相変わらず目を背けたくなる。 それなのに、何故だろう。 ―――トクン…。 静かに俺の心臓が跳ねる。 ―――トクン、トクン……。 目前のユリアスの姿を見ているだけで、その鼓動の響きは、俺を急かすように早まっていくのだ。 同時にキュッと絞められたように、胸の奥が淡く切なくなってしまう。 そんな上手く表現できない気持ちを持て余しながら、俺は、 「……怖く、ないよ」 と、直視したまま微動だにしないユリアスに囁くように紡いでいた。 一瞬、驚いたように目を見開かせたユリアスは、押し留めていたあの甘く危険な香りを一気に解き放つ。 たちまちに俺の身体中が沸きかえり、急速なまでに思考が薄れていく。 キスしていた指先を解放したユリアスが、俺の後頭部の髪に触れ、やさしく撫で下ろした刹那、 「―――ぁ…」 細く甘い喘ぎが零れた。 それを耳にした途端、ユリアスは藤也の頭をグイっと引き寄せ、ずっとむしゃぶりつきたいのを我慢していた、赤く可憐な唇を強く、強引に吸って奪った。 同時に熱にまみれた舌が入り込んで、俺の舌先を絡めとっていく。 息も止まるような荒々しい口づけに耐えられず、ユリアスの外衣にしがみついた。 「許せ」 短く、そう独白したユリアスに腕をつかまれて身体を返された俺は、腰を浮かせた形で寝台に突っ伏していた。 (―――ひゃ……っ) バサリとドレスの裾をめくり上げる音と共に、俺の臀部がひんやりと空気にさらされる。 下着をつけさせてもらっていなかった滑らかな双丘にユリアスの熱い吐息がかかり、全身を駆け抜けていく、ゾクッという甘美な刺激が、沸き起こった羞恥心をうやむやにさせていく。 両手の指で丸みを大きく割られて露になった秘処を、濡れた柔軟な舌で舐め上げられ、 「やっ…ぁ、あぁ……」 俺の口から、わずかに抗いを見せる声が零れる。 けれどその声には、高揚した甘いものが入り混じっていた。 そして押し開くように舌を這わせられ、執拗に嬲られた俺は我慢できずに、ねだるように腰を揺らしていた。 〜To be continued〜 |
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Fate 21
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- 2008/04/10(Thu) -
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粗方の説明を聞かされた俺は、ユリアスと分かれて冷たい大理石の廊下を進む。
女官に案内されて着いた清めの間には、霊水を溜めた浴場があり、その四隅の高台には神々の仮面をつけた巫女たちが立っていた。 彼女たちの掲げる勺から水が零れ落ち、水面を揺らしている。 その、不思議な空間に魅入られている俺の周りに、数人の女官が集まったと思いきや、伸ばされた腕たちによって一気に服を脱がされる。 (―――ひぇ゛……ぇ) 掌で、慌てて自分の息子を覆い隠す。 いくらピチピチの若い女の子たちじゃないからって、いや若いかもしれないけど……。 と、とにかくだ。 平凡な高校生やってた俺が、女の人たちに裸を見られて、平気でいられるわけがないだろ? (恥ずかしんだってば―――///) トマトのように真っ赤になって血が上り、若いかどうかと言うところまで気が回らないんだ藤也は、心の中で叫んでいた。 だが彼女たちは仕事柄なのか、股間だけ隠している間抜けな格好を見ていても、何一つ顔色を変えていない。 それでもどうになこうにか、身が引き締まるかのように冷々としている霊水に浸かる。 そして身を清めた俺は、女官たちによって雫を丁寧に拭われるという恥ずかしい思いを再び体感させながら、婚礼衣装を着つけられていた。 イラスーンの宮廷衣装を基本に誂えられたドレスは、ハリファと同じような細いシルエットのドレスなのだが、その隅々まで細かい細工が施されている。 その婚礼衣装を纏った俺が厳粛な雰囲気に包まれる頃、数人の神官たちが出迎えに扉を叩いた。 純白の豪奢な外衣はずっしりと重く、俺は静々と前へ進む。 「どうぞこちらへ」 と言われて開かれた両開きの重厚の扉の先には、凛々しく端整な出たちのユリアスが悠然と構えていた。 王族を表すという鮮やかなコバルトブルーの長衣と、床を這う長さの外衣の縁には金糸の刺繍が贅沢なまでに装飾されている。 イラスーン王家の正装でもある腰の帯剣には長剣の他に儀式の時に使うと言う半月刀が添えられていた。 「……藤也」 いつになくやさしい声音に歩み寄ると、腰を抱かれ、さらわれるように祭壇の前へ連れて行かれる。 ファティマも含め、かなりの神殿関係者が見つめる中、厳かな雰囲気と緊張感とで、俺の心臓が早鐘を打つように鼓動する。 ギュッとドレスを掴んでいる腕に力を入れて耐え忍ぼうとした時、俺の張り詰めた状態を察したのか、俺に顔を向けたユリアスがふっと、柔らかに微笑んだんだ。 「……ッ!」 それも今まで見たことのない、満面の笑みで。 途端に俺の全身が脈動し、さっきとは違った意味で、胸が勝手にドキドキと心音を刻み出す。 (し、心臓が壊れるぅ―――…) パッと顔を逸らし、心の中で慌てふためく俺は、もう儀式のことなんか頭からすっ飛んでいた。 そんな俺が正気に戻った時は、情けないことに、 『……ここに聖なる婚儀は成立した。我がイラスーンに栄えあれ』 と祭司が高らかに宣言し、儀式が終わるところだった。 祝福を受けながら、十二の神々に扮した神官たちが均等に立ち並ぶ間の通路をゆっくりと進んでいく。 それでも幾分緊張が続いていたらしい俺の、固くなっていた身体から力が抜けていく。 「ユ、ユリアス。俺……ちゃんと出来てた?」 どうしても拭えない不安から、俺を気遣いながら進む存在に投げかけてみた。 「ああ、そつのない出来だったぞ」 そう言われて、ふぅと安堵の息を漏らしていた俺は、ユリアスの目が輝いていることに気がつかなかった。 「疲れたであろう?」 と問いかけたユリアスは、返事を待たずに俺を軽々と抱き上げると、女官に先導されながらスタスタと歩く。 出口の方ではなく、横に反れた細い通路へと。 「ちょっ……何処へ行くの?」 もう儀式は全部終わったよね、と投げかけた時、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。 (…………!!) 見覚えのあるその香りに、俺の身体がビクンと反応する。 〜To be continued〜 |
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Fate 20
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- 2008/04/09(Wed) -
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太陽の日差しがいくぶん和らぐ頃、砂上に揺らめく陽炎の中に、突然岩山が浮き上がる。
「藤也、見るがいいバルディア山中にある神殿を」 (……えっ) 「こ、此処……なの?」 「ああ」 誇らしげに悠然と微笑むその視線の先には、巨大な岩山以外には何も見当たらない。 (本当にこんな場所の、何処に神殿があるんだ……?) 不思議そうにしている俺に、ユリアスは低く笑うと視線を元に戻した。 その岩山の一角に狭い裂け目が見え始める頃、ファティマに声を掛けられた一人の兵士が馬を疾走させ、その姿を消した。 両側には高さが優に五十メートルはあろうかと思われる岩の壁。 その岩壁の道は薄暗く、馬が並んで二頭しか歩けないほど狭い道幅である。 周囲を険しい岩山で囲まれている為に、外からはその存在が分からないような造りになっているらしい。 どのくらい進んだのだろうか……。 細い道の先に突如として開けた空間を、イラスーン王国の一個師団が警備に当たっていた。 侵入者を一網打尽にできる地形である。 恐らく、この場所の彼らを打ち破って侵入できる者はいないだろう。 先程の兵士は、一行の到着を知らせる為に使わせられたのだと、藤也悟った。 その広場を駆け抜けると、再び狭く曲がった道が続く。 そして長い上り坂を進んでいくと、いきなり正面に神殿が現れた。 岩山を刳り貫いた太陽の神殿の入り口は、繊細で美しい彫刻が施されていて、あまりの素晴らしさを目にした俺は、感嘆の声を出すのさえ忘れていた。 ここまでずっと馬に乗せられて来た俺は、そっと降ろされた場所で目前にどーんとそびえる神殿を前に、呆然と口を開けて立ち尽くしてしまった。 不意にユリアスに横抱きに抱き上げられる。 「ちょっ、何?」 「腰がつらいであろう?」 「だ、大丈夫だから。自分で歩けるし……」 ふんっ、と鼻を鳴らしただけで下ろす気は全然ないらしい。 確かにちょっとつらかった。 何しろ、この十八年というもの、馬などに乗ったことのなかった俺は、連日連夜の移動でお尻っぺたに負担がかかっていたのだ。 馬から下りても馬に乗ってる感じが消えないし、馬には悪いけど、 (もう当分、馬はいいかな……) と思わずにはいられなくなっている俺を抱えたまま、ユリアスは足早に神殿へ向かう。 「お待ち申し上げておりました。陛下、藤也様」 腰を深く折り、出迎えた神官らに神殿の奥へと誘われ、見事なまでに磨かれた円柱が並ぶ通路を進む。 その先は分岐しているという控えの間で、そっとユリアスに抱き下ろされた。 本来は、清めの洗礼を受ける為に、ここからは別々の聖地に進むらしい。 だがこれ以上、王城を長く空けるわけにはいかないユリアスは、一昼夜掛けて盛大に執り行う儀式を大幅に略し、明日の朝までには神殿を離れるつもりらしい。 話を聞きながら、差し出された冷たい飲み物を一気に飲み干した俺は、そこで漠然とした疑問を投げかけた。 「……で、その儀式って何の儀式なの?」 俺の言葉に周りに控えていた人たちが一瞬動きを止め、その場がシーンと静まり返った。 (あ、あれ?俺、何かマズイこと聞いちゃった?) こんなことならここへ来る前にちゃんと聞いておけばよかった、と後悔し始めた俺に、 「此処で、そなたと婚姻の儀を執り行う」 アラヤ神の前で誓いと証を立てるのだと、当然のように答えた。 (ふーん。なぁんだ、婚姻の儀式ね……) どこか他人事のように心の中で呟いた俺だったが、馴染みのないかけ離れた言葉にハッとして、 「え、えぇ―――っ!こ、婚姻?!」 思わず仰天して叫んでいた。 (今、婚姻って言ったよね?婚姻って、結婚するっていう……アレだよね??) ユリアスは、黙ったままじっと俺を見つめている。 (そんなの初めて聞いたよ?) いや、確かにイラスーンの国王が王女を気に入って同盟を結んで、んでもって条約には王女が後宮入りするって話をファティマさんから聞いてたけどさ。 (ま、マジで……結婚しちゃうの?) ってか、そんな大事なこと、準備もなしで簡単にしちゃっていいの? なんていうか、結納とか……そういうのいろいろあるでしょ? よくわかんないけど、大事だしね? ―――と、俺は現実逃避を図りながら頭を左右に振り、胸の中で叫んでいた。 「……藤也」 ふと呼びかけられて、塞ぎこんでいた面を上げた。 端整な顔が、俺のすぐ傍にある。 「逆らうことは許さぬ」 王者として犯し難い威厳を放つユリアス。 命令されるのは好きじゃない。 好きじゃないのに……、その高圧的な物言いに、屈辱感や嫌悪感よりも、甘い酩酊感で満たされてしまうのは何故だろう。 けれど、最近気づいたことがある。 どんな冷たい言葉を吐こうが、冷たい視線を投げようが、ユリアスは俺を大切なもののように扱うということに。 今も、「逆らうことは許さぬ」と言いながら、俺の掌を握りこみ、まるで恋人にするかのように自分の口元へ持っていくと、その手の甲に口付けをするんだ。 〜To be continued〜 |
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Fate 19
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- 2008/04/08(Tue) -
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ハリファを出立し、砂漠を渡り始めてから三日が過ぎていた。
『俺とて、然う然う出しっぱなしにするわけにはいかぬ』と言った通り、ユリアスは香を発することなく今日まで来ている。 時々、キスを仕掛けてくるものの、ディープなものになリ始めると我に返ったように身を放していくのだ。 確かに、男の自分が同姓に組み敷かれるという恥辱と、与えられるめくるめく快感に呑まれ、嬌声を上げ続けることには抵抗がある。 そして何より、自我をなくして無制限に欲望をい抱き続けてしまう、あのユリアスの醸し出すフェロモンは怖いと思っている。 ―――なのに、だ。 途中でキスを終わらせられることに、消沈している自分がいることに気がついてしまったんだ。 この矛盾な感情に、俺は途方を失わずにはいられなくなる。 失望にも似た小さな息をもらした俺は、遠く離れてしまったセシアたちのことを思い、気持ちを馳せた。 内殿で意識を失っている間に、ファティマたちの手によって介抱された彼女たちは、皆一様にして元気を取り戻していると聞いているものの、実際に自分の目で見ないことには安心できそうになかった。 そして別れの挨拶一つしないまま、ここまで来てしまったことにも、心が悔やまれてならないのだ。 だがそんなことは他所に、藤也を乗せた馬は黙々と砂塵を立てながらひたすら北へと走る。 馬を乗り換え、新たな水や食料などを補給した一行は、砂丘を駆け続ける。 太陽が地平線を赤く染め上げ、空は東からどんどん明るくなる頃、次第に風景が変わり、荒れ果てて寂しい景色になる。 そして荒涼としたその大地には、直径1mほどの岩塊がごろごろとしている岩場に変わり、注意深くきりたった岩壁の隙間の道を休まず駆け抜けていく。 その圧倒する岩々の前方に国境でもある山脈が視界に映る。 次第に勾配が増し、つづら折りの登りとなる険しい山道を進むと、国境を栄えに今度は下り坂になる。 砂漠の夜は、昼間とは打って変わり涼しくなるのだ。 さらに温度が下がる山道に差し掛かり、寒さに小刻みに震え出した俺は、温かいユリアスの胸にしがみついていた。 「……暑い」 自分の発した声で目が醒めた俺は、燦々と降り注ぐ太陽の眩しい日差しを、掌で遮りながらゆっくりと目を開けた。 見上げれば、太陽は雲一つない澄み切った青い空に高々と天頂に昇っている。 国境辺りから眠りについていた俺は、服を爽々と掠めていく、異国の香りのする風を思いっきり胸に吸い込んだ。 そして気づけば、辺り一面は真っ白な砂漠。 (うわぁ、すっげ―――っ) 青い海、白い砂……って言うのは、南国特有のものだと思い込んでいた俺は、その綺麗な光景に度肝を抜かされた。 砂に反射する陽光が一段とまぶしく見える中、ユリアスが口を開いた。 「藤也、間もなくアラヤ神殿に着く」 「アラヤ神殿……?」 「そうだ。イラスーンの信仰する太陽神アラヤは生命の誕生を司る、十二神中の至高神だ」 (……そんな神殿で何をするんだ?) けれど、喉が渇き始めていた俺は、口に出して疑問を問い返そうとはしなかった。 ユリアスの一行は、日差しに弱い藤也を気遣いながら、何処までも続く白い砂の海を足早に進む。 腕の中で自分に凭れかかる藤也を穏やかな表情で見下ろしているユリアスは、その初めて熱望する存在を正妃に迎えるつもりでいた。 しかし、如何せん……ハリファは小国なのだ。 気がかりなのは、王国の中枢を担う上層部の一角に元老院と呼ばれる組織である。 厄介なことに、その大半は先代の王の時代より在籍している食わせ者たちであり、国王と対等とは言わないが、それに匹敵するほどの力を持っているのだ。 そう易々と首を縦に振らないことがわかっているユリアスは、アラヤ神殿へ寄り、神の前で正妃にすることを誓いたいと思っていた。 そしてなにより、ユリアスの、ふつふつと沸き起こる欲望の我慢にも限界が来ていたのだ。 〜To be continued〜 |
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Fate 18
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- 2008/04/07(Mon) -
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ファティマが天幕から消えた途端、俺はたちまちに猛烈な勢いで不安になる。
わけわかんなくなって、あんな風に淫らになるのは……怖くて、怖くて仕方ない。 (……あんなのは、絶対に俺じゃないッ) 心の中で、そう強く思っている所為だろうか。 俺を狂わすフェロモンを垂れ流すユリアスが動いた拍子に、拒絶が始まる。 (……やっ……ヤダッ!) ―――ドクンッ。 声に出していたんだろうか。 目を不快そうに細めたユリアスがゆっくりと歩み寄ってくる。 ―――ドクン、ドクン……。 興奮しておかしくなった時とは違う気がするけど……。 心臓の刻む鼓動が早まっていく。 (い、嫌だ……っ!) これから起こるだろう羞恥と恐怖に戦慄き、 「嫌ッ。お願い……来ないで!」 それでも視線を外せないでいる俺は、晩秋の湖を連想させる深く青い双眼へ向けて叫んでいた。 「何んだと?」 ユリアスの、凍りつくような冷たくなった眼差しが、俺を捕らえて絡めとる。 俺は立たない腰で後ずさり、無意識に両腕で怯えた身体を抱きしめながら震える口を開く。 「あ……あんな風になるのは……嫌っ」 告白した俺の視界が、じんわりとぼやける。 激しく動揺していた俺は、気づいていなかったんだ。 エキゾチックでまったりとする、あの特有な甘い香りが立ち込めていないことに。 俺の頭の中は、近づくことを拒絶する感情一色に染まっていたのだ。 「嫌だッ。いや……誰か……!」 一層険しく眉間を寄せ、鋭く目を細めたように見えるユリアスが一歩、また一歩と近づいてくる。 忍び寄る恐怖に俺の身体は硬くなり、ぎくりと身を竦ませた。 「―――誰を呼ぶのだ?」 ファティマか?と、迫力の在る、低く重たい声音で迫ってくる。 「呼んでも無駄だぞ。あれは俺の忠実なる腹心だ」 口の端をわずかにひしゃげて言い放つ。 (……そ……それ以上来ないで!お願いだから……) 俺の瞳から、塞き止められなくなってしまった涙が溢れ、ハラハラと零れ落ちていく。 一瞬、困ったようにユリアスは足を止めた。 憮然としたその口元からは、気づかないような小さな溜息が漏れていた。 気づけば間近に迫っていて、自分に向けて伸ばされてくるユリアスの手が視界の隅に映り、ギュッと硬く瞼を閉じる。 「……俺を見ろ」 少し荒げた声に、嫌だと首を激しく左右に振るう。 だが、ユリアスは拒絶するのを許さなかった。 むんずと腕を掴まれ、グイッと強引に引き起こされた俺は、ユリアスの逞しい胸の中にいた。 フェロモンが漂っていると思い込んでいる俺は、必死に暴れて抵抗する。 実際は、腰の立たない状態の俺は、ユリアスに支えられていたのだが、そんなことには、まったく気づかない俺は、ただがむしゃらに腕を動かし続けた。 俺がぼこぼこ殴ったり、爪を立ててひどく乱暴に振舞っているのに、ユリアスは微動だにしない。 どれほど抗っても強靭な体躯の彼には、びくともしないのだ。 やがて体力を使い果たし、疲れ切った俺は身体から力が抜け、ユリアスにもたれかかっていた。 大人しくなった俺の身体を優しく抱きしめながら言う。 「そなた、頭に血が上っていて気づかなかったらしいが、俺は香を出してはおらんぞ」 (…………へ??) 涙でぐちょぐちょになった顔を上げれば、冷たく威圧するような視線は消え失せ、俺を安心させる穏やかな表情のユリアスがいた。 (あれ……。じゃなんで俺、こんなに動揺して暴れてたんだ?) 我に返り、ふとそう思った俺の顔は、アホじゃないか、とみるみる内に赤くなっていく横で、 「……俺とて、然う然う出しっぱなしにするわけにはいかぬ」 と、顔を逸らし、何故か少し困ったような、口ごもるような口調で言葉を零す。 そんなユリアスのことを、自分のことはすっかり棚に上げててしまった俺は、じっと見つめていた。 「何をそう驚いておる?」 ちらりと俺を横目で見ると、唇の端をゆるく噛んでいた。 (あれ? もしかして……恥ずかしがってる?) そう思ったら、何だかユリアスが可愛く見えてしまい、クスクスと笑い声が溢れる。 その刹那、俺の肩越しに顔を埋めたユリアスの、俺を抱く腕に力が入る。 「あまり俺を煽るな」 珍しく切羽詰ったような声音に、ドキッとして身じろぐ。 そんな俺に、 「動くな」 と、眉をひそめながら一言囁いたユリアスは、唯々ずっと抱きしめていた。 トクトクと伝わる、やわらかな鼓動。 (あれ、おかしいな……俺) ―――甘く、もどかしいような感覚が俺の中で目覚めていた。 〜To be continued〜 |
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Fate 17
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- 2008/04/04(Fri) -
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アーモンドや干しぶどうなどを吹き込んだご飯、
ローストされた牛肉、羊の煮込みトマトとオリーブオイルのサラダ……。 ファティマは質問には答えないまま、俺の目の前に、次々と料理のお皿を並べて行く。 「あの、何で俺……イラスーンに?」 「イラスーン王国の王であるユリアス様が望まれたからです」 (ひいぃ……ユリアスって王様だったの?!) 完璧といっていいほど男性的に整っている美貌と体躯。 圧倒的な存在感を持って現れた彼が、王だと言うのなら何となく納得はいく。 (―――でも…) 飲み干して空になったグラスを床に置くと、藤也は思いきって口を開いた。 「いくら王様だからって、こんなことしていいわけないよ」 「こんなこと、とは?」 ファティマは軽く方をすくめ、意味ありげな様子で俺を見つめる。 「意識を失っていた俺を、さらって連れてきたわけでしょ」 「確かに、とてもお疲れになられたご様子で、ぐっすりと眠っておられましたね」 といって笑い出したファティマは、空のグラスにジュースを注ぐ。 (ちょっ。そこ、笑わなくていいから……) 仕方ないだろ、俺、今まであんまりHしたことなかったし。 あんなに乱れちゃったのも初めてだし、ものすごく疲れちゃったんだから……。 恥ずかしくて、俺は赤らめた顔をぷいっと横へ背けて、小さく唇を噛んだ。 「ハリファ王国が我が国に同盟を申し込んできたのは、ご存知ですか?」 と、不意に問われた言葉に首を縦に振って答えた。 それで視察に訪れていたって聞いているし。 「ハリファが提示した条件は二つでした。 一つは、とある銅山の採掘権。 一つは、第一王女の後宮入り」 (―――後宮入り?それって正式な婚姻じゃなくて、寵姫の一人ってことじゃん) 政略結婚ですらひどいことだと思っていた俺は、 後宮入りという言葉を聞いて憤りを感じ、同時に唖然とした。 「当初、ユリアス様は少し渋っておいてでしたが……」 ファティマは、何故か困ったように、少し口ごもるようにして続けた。 「どうやらユリアス様は、 その第一王女をいたくお気に召されたご様子で、同盟の手続きを済まわれてしまいました」 (―――はい…ぃ゛?!) 「嘘っ。えっと、ちょっと……待って?」 動揺しすぎて、混乱して頭の中がパニックを起こした俺は、支離滅裂になる。 マディーナ王女は、まだ帰国していないのだ。 少し離れた国の、そう……確かベシェという街に、今も滞在しているはずだ。 それなのに、お気に召された、ってどういうことだ? (そういえば……) と、ふいに俺は内殿の寝室で会った時のことを思い出した。 確か、あの時、俺の名前を聞こうとしてファティマは言ったんだ。 “王女の偽者と言うことはわかって、聞いております”と。 「あ、あの。もしかして、その第一王女って……俺のことだったりしちゃいませんよね?」 冷や汗を垂らしながら、絶対に違って欲しいと、わずかな望みを切に願う俺。 「他に第一王女がいるとは、聞いておりませんので」 そう、くすくすと、それはもう愉快に笑いながらファティマは囁く。 「間違いなく、藤也様のことですよ」 (はぁぁ、やっぱりか……) と、口の中で悄然と呟いた時だった。 バサッと大きな音と共に、乾いた熱風が流れ込んでくる。 「随分と楽しそうだな?」 それは、冷たく突き刺さるような低いバリトン。 振り向けば、 天幕の入り口である垂れ幕を持ち上げた男が、不機嫌そうな面で佇んでいた。 「さて、邪魔者は消えましょうかね」 独り言のように小声で話しかけたファティマがゆっくりと立ち上がる。 ええッ?!ちょっと待って下さい。 もう、全然邪魔者なんかじゃないですから、っていうか、むしろ…… (二人にしないでよ―――!!) だが、俺の心の叫びも虚しく、ユリアスの横をすり抜けていく。 そのすれ違い間際、ファティマはにわかに声を顰めていた。 「如何でしたか?外の様子は」 「うむ。数日前、 この近くのオアシスの目と鼻の先でキャラバンが蛮族に追われたらしい……」 今すぐにでも出立したいところだが、と思うユリアスだが、 その視線は天幕の奥で畏まったように腰を下ろしている人物へと流れて止まる。 この炎天下の中を移動するのは、 あの白い肌を持つ藤也には厳しいだろうと、踏みとどまったのだ。 「イスファンたちには、引き続き警戒させている」 と、視線を自分に戻したユリアスに、 「では、日が傾き次第……ここを出立するよう、手配をします」 そう言って、ファティマは天幕の外へと消えていった。 〜To be continued〜 |
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