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Fate 75
- 2008/08/11(Mon) -
―――一方、その頃のユリアスは、
仕事の一部として後宮を任せている女官長次官・マディーナからの報告を受けていた。

「ほぉ。随分と早い動きだな」

感心したように、けれど想定通りとでも言うかのように、
その眼差しはそこはかとなく冷め切っているように、マディーナには見えた。

「陛下、よろしいのですか?
中にはイザーク王子とエメリア王女の母君も含まれておりますが……」

「構わぬ。本来、夫人たちに望んでいたのは、
親子として合間見えることの出来なくなる後宮絶ちまでの限りのある短い時間、
慈しみ愛で、大切に育ててもらうことだったのだ」

“大切にと言っても、甘やかされて育だてられることではない”
と言葉を付け加えたユリアスは、呆れたような消沈する溜息をつく。

「なのに、実際はどうだ? 
己の優越感に浸ることを目的に豪華に着飾り、側室どもと競うことしか頭にない彼女らは、
子を全てお付の侍女らに任せっきりにしているばかりか、
社交性に欠けようが、栄養過多に育とうが一向に構う兆しすら見せない」

冷ややかな口調で吐くユリアスの眉間がぴくりと不快に動き、
その双眸が怒りの色を含んでいるのは明らかだった。

“そなたも、イザークの様子を知っているであろう?”
そう振られて問われたマディーナは、苦々しそうな表情で頷いていた。

あれでは到底、将来的にも国を担える状態ではないと、誰の目にも映ろう。
そして、エメリアに至っては激しい人見知りとくる。
内外問わず、何処ぞに嫁ぐことになるであろう王家の血筋の者が、
まともな人付き合いが出来ないようでは困るのである。

そう踏まえるユリアスは、八歳で迎えるという後宮絶ちを早め、
皇太子と同じくして全ての子を後宮から出すという特例対処を取ったのである。
尤もその陰には、例の暗殺未遂事件も大きく関わっているのだが……。

兎にも角にも、その特例処置と称するものは子たちに留まらず、
見直された後宮制度にも組み込まれていたのである。

イラスーン王国の法律に基づく「男児二子」を儲けたユリアスにとっては、
その為に宛がわれた後宮は役目を果たしたことになる。
歴代の国王らは、変わらずに側室たちの元へ足を通わせ続けていたものの、
藤也以外には全く興味を抱かない彼は、
意味を成さないと格付けし、後宮を閉じることにしたのである。
とは言え、亡国の徒となった側室など、
諸事情により行き場のない者もいることから、
完全に無くす分けにはいかないのが現状であった。

そこで、同盟国への経済的支援等は現状維持することを前提に掲げ、
希望者には側室として支給されていた高額な費用の半年分に及ぶ支度金を用意し、
祖国へ戻る機会を与えたのである。

一部の者たちを除き、そのほとんどが「正妃」になることを望み、
今は凍結して機能を完全に停止している元老院が推し進めていた「二名の妃」の座を求め、
日々後宮内で争いながら過ごしてきた側室たちを見ていたマディーナは、
その野望が途絶えたことに、彼女たちが遣り場を無くすだろうことは、目に見えていた。

けれど、その中に王子たちの母親らが含まれていることに、戸惑いを覚えたのである。
そんなマディーナにユリアスの言葉は続く。

「愛情薄く育てられている子が、
それほどに母親を思慕する心など持っているとは思えぬ」

“子供は敏感に悟るものだ”そう語るユリアスは推し量る。
向けられなかった母親の愛情を、我が正妃となった藤也に求めるであろうと……。 
そうでなくとも、万人には全く反応しない特別な香を放ち、
我が血族を魅了する、王家の伝説に登場する「蓬莱人」なのだ。
惹かれぬ者など有り得ないのである。


〜To be continued〜
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