Fate 12
- 2008/03/23(Sun) -
「……藤也」

寝台の上で寛ぎを見せている男が、俺の名を呼ぶ。
魅惑的なバリトンの声音に、やっと平常に戻った心臓が、トクンと跳ねる。
「藤也、ここへ」
自分の佇む傍のシーツをトントンと指で軽く叩き、そこへ来いと促してくる。
ベッドに座って話を聞く気分じゃなかった俺は、
見惚れて頬を赤く染めながも、見なかったことにしてやり過す。

「さっきの人、あなたが確かめたいことがあるって言ってたけど……」
すると男が俺に問い返す。
「そなたも知りたいとは思わぬか?自分が何者なのか」
(……はぁ?)
いやいや、何者かと聞かれても……
王女の身代わりをしてた一青年、という意外何もないんだけど。
アレか?映画の中に出てくる、
一見普通の主人公が、実は世界的に有名な冷酷な暗殺者だった……とか、そういうヤツ?
そういうことを聞きたいの?
でも、残念ながら期待されてもそんなオチはありませんよ。
俺ってば、二年前までは極普通の高校生してただけなんだから。
(そんなことよりも、俺の方が聞きたいよ)
「何で、こんなひどいことしたの?」
「ひどいこと?」
気にくわなかったのか、少し機嫌の悪そうな表情をし、眉間に皺を寄せる。
「だって、ここにいる人たちに暴力奮ったでしょ」
聞きたいことがあるんなら、正式に申し出れば済むことなのに……。
「婚姻するまでは、特に異性の前に姿を現さぬという相手に、 
どうやって近づけというのだ?」
すっかりそのことを忘れていた俺は、何も言い返せない。

(偶然がそうそう続くとは思えん)
と心の中で呟いたユリアスが痺れを切らし、動いた。

キシッと微かに寝台の軋む音を立てて立ち上がった男が近づくにつれ、 
甘い香りが漂ってくる。
「……!」
(やっぱり、この香り……この人から?)
そう思った数秒後には、心臓がトクトクと忙しなく動きはじめる。

「蓬莱人、という種族を知っておるか?」
(……蓬莱人?)
それは、聞いたことのないものだった。
震えがくるほどの精悍な美貌に目を逸らすことができずにいた俺は、 
首をわずかに左右に振る。
そうしている間も、俺の身体は急激なまでに熱を帯びていく。

(や、やだ……このままだと、また変になる)
危険を感じて後ずさろうとした時、痛いくらいに腕を掴まれた。
「ユ、ユリアス?」
驚いた俺は、咄嗟にさっき教わった名を口にしていた。
すると男は一旦立ち止まって俺を見下ろし、凄く嬉しそうな視線を向けた。
その、ニッコリとあでやかに笑う姿を目の当たりにして、俺の胸がドクンと高鳴る。

次の瞬間、
「―――んっ…」
視界には、黄金のリングが映える、深く濃い蒼色の双眸が広がっていた。
(う……そ、どうして?)
腰をしっかりとホールドされ、いきなり噛みつくようなキスをされた俺の頭の中は真っ白。
「ん……ぅぅ」
そして歯列を割って侵入した男の舌は、猛獣のように襲い掛かり、
俺の舌先を捉えると執拗に吸い上げ、絡め取っていく。
腰が砕けそうになり、意識が朦朧としてくる。
だけど離れようにも、まるで媚薬でも注がれてしまったかのように、 
身体が痺れて動けないのだ。
(んぁ、もう駄目。息が……)
その刹那、送り込まれてきたのは、大量の唾液。
無理やりな形で飲み込ませられた俺の膝から力が抜け、
カクンとした拍子に、透明な糸を引きながら、やっとキスから開放された。

―――だが、それだけでは終わらなかった。

その男は、軽々と俺を抱き上げると傍のベッドの上へと運び、
そして寝かされた俺の上に、今度は覆い被さってくる。
まるで、獲物を追い詰めた肉食獣のような獰猛な牡を呈して……。


〜To be continued〜

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