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Fate 34
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- 2008/04/25(Fri) -
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兵士に付き添われて、静々と部屋の中へ入って来たのは……。
(……セ、セシア―――?!) 俺は、信じられないほど大きく目を見開いたまま、固まった。 「う……嘘、どうして?なんで、セシアがここにいるの?」 無意識に呆然と呟いている俺の視界は、もうたくさん泣いて枯れていると思っていた涙で滲んでいる。 元気にしていると聞かされていても、いつも思い出すのは、最後にわかれた内殿で、俺を逃がそうとして首を羽交い絞めにされ、苦渋に満ちていた彼女の顔ばかりだった。 「そなたの周りには、信頼できる者しか置けぬ」 そう言ったユリアスに、近くへ来るようにと命令された、部屋の入り口で顔を伏すようにして座り込んでいたセシアは、ゆっくりと面を上げた。 彼女の淡い茶色の瞳は、必至に緩みそうになる涙腺を堪えている。 燭台の炎で揺らぐセシアの陰が間近に迫った時、ユリアスは、抱きしめていた腕の力を緩め、そっと俺を解放した。 再会した喜びと安堵で胸がいっぱいになっている俺は、信じられないものを見るかのようにセシアを見つめたまま、放心したように力が抜けている腰でフラリと立ち上がる。 おぼつかない足で一歩、また一歩進む。 そして、わずかに顔を上げた彼女と視線が重なり合った瞬間、 「セシア―――ッ!」 叫びながら手を思いっきり広げて伸ばした俺は、彼女の華奢な身体をぎゅっと抱きしめて、情けないことに子供のように泣きじゃくっていた。 「これまで通り、否。これまで以上に藤也に尽くすと誓えるか?」 問われた、抱き締めている俺の肩越しから面を上げたセシアは、真っ直ぐな瞳をユリアスに向け、 「はい」 と、迷うことなく答えた。 「わたくしは既に、この身を一生、藤也様の恩為に捧げると、初めてお会いした時に誓っております」 凛とした彼女の声音が澄んだ空気に浸透していく。 一瞬、静寂に包まれた中、 「ならば、後宮での藤也の身をその方に任せるとしよう」 そう紡いだユリアスの表情には、満足げな感情が浮かび上がっている。 「御意にございます」 己を抱きしめてくれている藤也の身体をそっと離し、セシアは崇うように伏して拝礼した。 その様子を見守っていたムスタファが、おもむろに立ち上がると開口する。 「……では、直ちに出立しよう」 (―――えっ…) このカナールの離宮に着いてから、まだそれほど時間は経っていないのだ。 「いっ、今から―――?!」 夜の帳に包まれ、このままここへ泊まるものだと思い込んでいた俺は、驚きを隠せずに慌てて振り返り、そう問いかければ、 「残念ながら、あまり事を悠長に構えている時間はないんだよ」 渋い顔をあらわにしたムスタファがそう答える。 「間もなく、王子達は後宮から離れなければならなくなる時期を迎えるからね」 青い双眸を薄っすらと細めると、どうやら元老院に圧力を掛けている者がいるらしいのだと、俺に告げた。 「五人の中から、一人の正妃を定められない彼らは、今度は、妃として新たに二名の婦人を後宮から上げようと企んでいるらしい」 クククと笑いを零すものの、その表情は研ぎ澄まされ、口元は全く緩まれていない。 「踊らされている上に、そんな一時しのぎの策で近隣諸国と渡り合おうなどと、どこまで我が王家を……」 そう話しはじめたムスタファは、言葉を止めた。 「そのようなことをせねばならぬほど、我が国は落ちぶれても、弱き国でもない」 吐き捨てるように言い放つユリアスに頷きながら、ふう―――…と重苦しい息を吐き出したムスタファは、漸く自分の意思で動き始めた若獅子へ、皮肉混じりな視線を流した。 「元老院と後宮、そして婦人達の祖国との癒着を調べろなどと言う無理難題を、ハリファ王国から緊急用の鷹を飛ばして寄越したくらいだ」 後宮を考えずに政治を動かすのは不可能などと言っている奴らを、一掃するつもりなんだろう?と詰問するムスタファを、フン……っと鼻先であしらったユリアスは、 「聞くまでもない」 短く答えると俺に視軸を合わせ、歩み寄る。 そして俺の頬に手を添え、先ほどまで零していた涙をそっと拭うと、やるせなさそうに薄く微笑んだ。 「……済まぬ」 憂いを帯びた声に、俺の胸がキツンと痛む。 ……わかっているんだ。 そのたった一言の言葉には、いろんな思いが詰められていることに。 だから、 (―――心配いらないよ。俺は大丈夫……) と満面の笑みで返した。 ―――静寂な世界を飾る、神秘的に眩いばかりの大きな月ときらきら輝くあまたの星々……。 その満天の星空の元、馬に跨りカナールの離宮を後にしたユリアスの一団は、 王城のある王都ラトゥシュへ向け、再び白い砂漠を駆けていく。 黎明を迎えれば、四〜五時間ほどで肌を刺すような冷たい空気は、熱風に変わる。 〜To be continued〜 |
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