Fate 37
- 2008/05/05(Mon) -
―――後宮の側室たちは、どの姫も憂いを含んだ一級品の美しさを兼ね揃えている。
けれど、世継をつくるために足を通わせていたとはいうものの、 ユリアスはどの美姫にも心を許すことはなかった。

その中には、ユリアスによって滅ぼされた国の生き残りである王女も含まれている。
ラキウラ銅山へ視察に訪れた父王が暗殺されたのは、今から三年前に遡る。
単に、その報復攻撃として、圧倒的な戦力を持って完膚なきまでに叩いたまでだが、どんな理由があるにしろ、多くの民の血を流し、家族を殺した相手を恨み、憎みこそすれど、良く思うわけはないだろう。
そしてそれ以外の側室たちも皆一様にして政略的な意図を孕み、望まずして後宮に迎え入れられている以上、心を解くわけにはいかなかったのだ。
それゆえ、ユリアスは情事の際も常に枕の側には剣を置き、そうして、どれほど身体が疲れていても後宮で夜を明かすこともしなかった。

そんな彼女たちの住む後宮は羽振りよく整えられ、華やぎを見せている。 
けれど、子を産むことのなかった側室や、王の寵愛を受けられなかった側室は、王の死去と共に、いずれその身柄は、「嘆きの里」と呼ばれる寂れた土地にある離宮に移されることになるのだ。
それは後宮のように華やかな生活ではなく、毎年定められて給付された金銭で、細々と静かに余生を送る運命にあった。
そのため、自分の行く末を案じる彼女たちの多くは、王の寵愛を受けようと肝胆を砕く日々を送っている。
ただでさえ、今は元老院が躍起になって正妃選びをしている最中である。

そんな状態の後宮内に、通例通りに藤也を入れなければならないユリアスは、自分を不甲斐なく思うのと同時に、嫋やかな彼の身を心配せずにはいられなかったのだ。

「すぐに会いに行く」

だが、そう言ったユリアスの視線に映った藤也の眼差しは、今までの彼とは別人のように輝いていた。
揺らぎを垣間見せず、凛としてたたずむ姿に魅せられたかのように惹きつけられたユリアスは、 それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。
何が彼の心を気高く変えたのかはわからない。
けれど、わずかにではあるが、そんな前向きな状態に変化させている藤也をユリアスは頼もしく思えていた。
今の彼なら大丈夫だ、と確信めいた思いを胸に秘めながら、後宮へと消えていく藤也の後ろ姿を見届け、その細い通路から視線を戻したユリアスの表情は、以前の様に威厳を放ち、何人も犯しがたい雰囲気を醸し出していた。

「サヴェイラとロサリナに放っていた密偵からの報告は、どうなっている?」

数日とはいえ、ろくに眠る暇もない日々を過ごしているユリアスは、疲れを見せることもなく身を翻すと、秘密裏に動かしていた者たちに声を掛けながら、慌しくその場を辞した。

       ◇         ◇         ◇      

一方、女官長に案内された後宮内の私室に足を踏み入れた藤也は……。

「う、はぁ……っ」

思わず驚きの声を上げていた。
ムスタファに、目立たぬように通例通り小国出身として迎い入れ、定められた狭い私室を宛がうと言われていたからだ。
確かに、狭い。
今まで住んでいたハリファの内殿に比べたら、破格なまでに狭いのだが、藤也のために誂えられた部屋は、目を見張るばかりの調度品で上品に整えられていたのだ。

壁に掛けられている、巨匠の筆による、神話の一節を描いた見事な絵画をはじめ、天使や薔薇の彫刻で飾られた猫足の飾りダンスに化粧台……。
金糸や銀糸をふんだんに使った豪華なクッションが置かれたストゥールなどが配置されている。
そして上等な布で織り上げられた窓掛が二重に掛けられ、微かな風に靡いている大きな窓は、日差しに耐性のない藤也の肌を配慮したような造りである。

……考えたいことは、色々あった。

けれど、一昼夜神経を張りつめ続け、そのまま後宮入りした藤也は、ふかふかとしたベッドの上に乗り上がり、ごろんと横になった途端、深い眠りに誘われていた。

〜To be continued〜

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