Fate 40
- 2008/05/07(Wed) -
―――人知れず、藤也は自我と格闘していた。

花壇の近くで、突き飛ばされて動けなくなったマリーを見かけ、ついつい好奇心に駆られて私室へ着いてきてしまったけれど、実は、カラカラになった喉が潤いを求めていたのだ。

そんな時にタイミング良くテーブルに置かれたのは、一杯の冷たいハーブティー。
マリー王女の侍女、もといマリー王女の乳母が入れてくれた飲み物を前に、コクリと小さく喉がなる。

(……すっごく飲みたいけど、やっぱ飲んだらダメだよな?)

そう思うもの、人前でヴェールを取るなと口を酸っぱくして言われているのだ。
けれど、私室に戻るまで持ちそうにない藤也は、
(うぅ、飲みた―――い!)
こっそりとグラスを手にすると、ヴェールの中へ運ぶことにした。
顔を出さずに飲めばいいのだ、という甘い悪魔の囁きに白旗を振ったのだ。

「マディーナ様、何をなさっておられるのですか!」

想像以上のセシアの怒声に、ビクリと肩が揺れてしまう。
(あ、危な……ッ)
もうちょっとで、危うくドレスを汚すところだった俺は、ほっとして安心した息をつく。

「やっぱり、お行儀が悪かった?」 
……よね?と、駄目押しで首をわずかに傾げながら、セシアに苦笑いを見せる。
もちろん、セシアはそんなことで藤也を制したのではないのだが。

子供のようなことをなさらないで下さい、とばかりにお小言を言われると観念した藤也の横で、クスクスと笑い声が響く。

「ご、ごめんなさい……」

笑いを堪える涙が浮かんでいる目を拭いながら、ストゥールから立ち上がったマリーは、こちらへと痛む足を動かしながら歩み寄ってくる。
そうして、俺から取り上げるようにグラスを手に取った彼女は、
「ご心配なさらなくても、毒など入っておりませんわ」
セシアに向かって悠然と微笑むと、グラスを一気に呷る。

“毒”という言葉に、行儀の悪いことを止められたのではなかったのだと、勘違いをしていた俺は、少し血の気が引きそうになった。

一瞬、頭の中に過ぎってしまったのは、ユリアスのお父さんを“暗殺した国の王女”という、歪んだ認識。
先入観に基づき、一方的に彼女にレッテルを貼っていたのかと、藤也は愕然とする思いを振り払うかのように、激しく頭を振るう。

後宮入りしたばかりで、彼女との接点はない。
助けようと近づきはしたが、命を奪うほどの恨みや妬みなど、持たれるわけもないのだ。
なにより、こんなに澄んで綺麗な瞳を持つ人が悪いことを考えているとは、どうしても思えなかった。
それはただの直感だから、証拠なんかないし、確証もない。
でも、確信めいてそう思えた藤也は、乳母に向かって口を開く。

「もう一杯、用意して頂けますか?」

そう言った藤也は一呼吸置くと、姿を覆うヴェールに手を掛けた。


〜To be continued〜

この記事のURL | Fate  | CM(0) | TB(0) | ▲ top
<<Fate 39 | メイン | Fate 41>>
コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する


▲ top
トラックバック
トラックバックURL
→http://karen5.blog71.fc2.com/tb.php/63-e4a83855
| メイン |