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Fate 41
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- 2008/05/08(Thu) -
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「ネネ。お茶が零れていてよ?」
ヴェールを取った藤也を呆然と見つめたまま、乳母はお茶を注いでいる手を止めてしまっていたらしい。 マリーの声にハッと我に返った乳母は、慌てて始末にかかる。 そう言った彼女も、藤也に視線を向けた途端、目を見開かずにはいられなかった。 「ねぇ、セシア。顔に何かついてる?」 自分を見た二人が二人とも変な顔をしたことに、不安になった藤也は、顔を確認しながらセシアに訊ねれば、彼女はいつもと同じ穏やかな笑顔で、いいえ、と首を横に振っている。 そんな藤也に、平静を取り戻したマリーが、ごめんなさい、と謝りの言葉を述べた。 「お顔に大きな傷痕があるとお聞きしていましたものですから……」 どうやら事前に、その顔を隠すために黒いヴェールで身を包んでいるという御触れがあったらしい。 あはは、と心の隅で小さく笑った藤也は、見たこともない艶やかな黒い髪と瞳を持ち、その上、予想もしなかった美しい容貌に、マリーたちが放心したように心を奪われていたことを知らないでいた。 グラスを手にして口にすれば、冷たいハーブティーが喉を滑り落ちていく。 (あぁ、美味し―――い) はぁ〜生き返った、とほっと一息つく横で、ずっと目を光らせたまま、成り行きを見つめていた男が、顎に掌を宛がい、困ったように、いや呆れたかのように嘆息を漏らしている。 そんなことには気づかない藤也は、一通り、確認するかのようにぐるりとマリーの私室を見渡す。 ユリアスの話では、どの側室も煌びやかに誂えられているとのことだったが、どう見ても、彼女の私室は煌びやかから程遠いことに疑問が生じる。 そして彼女の纏っているドレスも、取り立てて飾りのない質素なものなのだ。 華美に満ちた生活がいいとは思わないけれど、彼女が意図的に、あえてそうして慎ましくしているように思えてならない。 それに、いくら最下位の側室とはいえ、飾りなく暮らすほど給付される資金は少なくはないはずだと、お節介なことに、藤也は口を開く。 「この閉鎖された後宮では、部屋を飾ったり、綺麗なドレスを着たりする以外に、楽しむようなことはあまりないように思えるんだけど……」 そう前置きを述べ、再びマリーを視界の中心に捕らえながら、どうして、ここまで控え目な生活をしているのか、と直截に訊ねれば、ふっと笑みを見せ、ご存知ですか?と俺に問い返す。 初めて後宮入りを果たした側室の元には、ユリアスは必ず挨拶に赴くというのだ。 どうも彼女は、その時のことを気にかけてくれている様子で、 「裾までヴェールで隠れていらっしゃるのだから、マディーナ様は、普段からもっと艶やかなものをお召しになられればよろしいのに」 美しく映える姿は、私室に訪れたユリアスの目にも留まるはずだと小っ恥ずかしいことをさらりと言う。 「わ、私のことはどうでもいいんです//」 (……だって、男だし) 心の中で、頬を少し染めながら独白している藤也に、マリーがひっそりと打ち明ける。 「五年前の聖誕祭でお会いした時から、ユリアス様をお慕い申し上げております」 それは、ドキリとする告白だった。 「ですが……愚かにも野望に満ちたわたくしの父は、ユリアス様のお父様の命を奪ってしまっただけではなく、多くの民の命を失わせてしまいました」 そう話す彼女はユリアスへの思いは捨て、今はただ亡くなった人々の冥福を祈り、大切な人を失わせてしまった家族たちへの幸福を願い、日々、後宮内に設けられている小さな神殿に足を通わせるためだけに存在しているのだと言う。 だから、華美な生活をする必要がない、と平然に言う彼女に心を痛めずにはいられない。 確かにユリアスのお父さんを亡き者にしようと企み、実行させたのは、彼女の父親かもしれない。 「でもそれは、貴方の責任ではないのでしょ?」 けれど、首をはっきりと左右に振りながら、 「わたくしには、父を止められなかった責任があります」 そう語った彼女は、一国の王女らしく凛としている。 「本来ならば、世俗を離れて戒を受けるべきなのですが……」 唯一王家の血を持つ生き残りであるマリーは、祖国復活を望む者が現れる可能性を唱えるユリアスに、“死”か“後宮入り”かという二社選択を迫られたらしい。 死を選んでいれば、楽になれたのかもしれないと呟くように話す彼女は、生きて神に祈りを捧げ、贖罪する道を選んだのだ。 真っ直ぐで、穢れ無き思慮深い彼女に感銘した藤也は、席を立っていた。 そうして彼女の元に歩み寄ると、腕を伸ばし、 「一人くらい、見方する人間がいても迷惑じゃないよね?」 お友達になろうと、握手を求める。 「もちろん、ここでは新参者で何の力にもなれないけど……」 そう苦笑する藤也に、クスリと短い笑い声を漏らした彼女には、後宮入りしてからという三年間、乳母以外の人は誰も側にいなかったのだ。 本当に手を取ってもいいのかと戸惑いを見せる彼女は、ほら早く、と腕先を揺するようにして待つ藤也を見つめ返した瞬間、胸の奥がジーンと熱くなり、その、自分に差し伸べられた温かい存在に縋るような気持ちで腕を伸ばしていた。 〜To be continued〜 |
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