Fate 53
- 2008/06/05(Thu) -
一方的に秘密を握り、優位に立つことは容認しがたいのだと紡ぐ、
プライドの高いらしい夫人は、自分は愚かにも弱いのだと言葉を漏らす。

「常に傍にいる者に心が向くのは自然のことだとは思わなくて?
幼き頃より見知っているなら、なおのこと……」

そう独白した彼女の心は、正妃になるべくして後宮へ入った自分はもちろん、
イラスーンからの多いなる恩恵を得ようと望む祖国をも欺き、
ロサリナから連れてきた騎士に秘めた思いを寄せているのだという。

夫人の傍らにいることを選んだというその騎士が、
先ほど鋭い目付きで室内の安全を確認した宦官ではないかと悟った藤也は、
王族として果たさなければならない表の顔に隠された、
彼女の一人の女性としてのささやかな、けれど辛く重い秘密を前にして、言葉を失う。
なんと彼女に掛けて上げればいいのか、言葉が思い浮かばなかったのだ。

そんな心境を感じ取ったらしい夫人は、ゆっくりと腰を上げる。

「互いの秘密は、公然とせぬようにしましょう」

暗黙の笑みを浮かべながら言葉を残し、
立ち去って行ったそのわずか数日の間に、事件は進展を見せることになる。

 
―――一方、ディアナから報告を受けたユリアスは、険しい顔を露にしていた。

王子達の世話役選びなどで忙しい日々を送る女官長の代わりに、
全権をディアナに委ねることにした、
ユリアスに命を下された彼女は、時を移さずして行動を起こしに掛かる。

国王は二子の男児を儲けなければならないという法律がある以上、
王子を失えば、ユリアス自身が望まなくても、
新たなる王子を得る為に、後宮内へ足を運ばなければならなくなる。
皇太子が後宮から離れる時期を迎える今、
暗殺未遂事件を画策したのは、新たに王子を身篭ることを狙った、
二番目以降の側室ではないかと頭の片隅で巡らしたディアナが、
第二王子であるイザークの母親を除外したのには理由がある。
成人の儀を迎えるまでは、第二にも後継者になる可能性が大いにある為、
彼女には危険を冒し、焦ってまで事を起こす必要性が薄いのだ。

そう考えたディアナは、
藤也が見たというわずかな手がかりを頼りに犯人を捜すよう動きを見せる。
だが犯人の、右手の目的のものを焼かれたりしては元も子もなくなることから、
彼女は表立ってそのことには触れず、台帳を書き換えるという名目を掲げ、
後宮に勤める全ての者たちにを対象に一人ずつ面接をすることにした。

     ◇     ◇     ◇

「ル、ルビ―――っ?」

(ちょ……嘘だろ、何で?!)

「セシア、どうしよう!ルビーが、ルビーが……」

動揺した声に慌てて駆け寄ったセシアの目に映ったのは、
居室のテーブルの上でぐったりとし、口からぶくぶくと泡を吹きながら、
時々手足を痙攣させているルビーの頭を優しく撫でながらも、
秀麗な眉根を寄せて、目にはたくさんの涙を浮かべている藤也の姿だった。

ルビーの周りには、粉々になったクッキーの残骸が散らばっている。
どうやら飾りにつけられたナッツをかじっろうとしていたらしい。

瞬時に毒だと悟ったセシアが、
「このクッキーは、お口にしてはおりませんよね?」
確認するためにそう問えば、
うんうん、と頷く藤也の円らな瞳から溢れ出した涙がハラハラと零れ落ちる。

素早く、証拠のクッキーを全て入れ物に移し、
ルビーを柔らかな布に包んでバスケットの中にそっと入れたセシアは、
「お医者様に診て頂きに行って参りますわ」
そう述べると、私室の内側の入り口に控えている警備の者に向かって口を開く。
「マディーナ様は、風邪を召されてお休みになられています。
何方であろうと、面会には応じないように」
と十二分に注意を促すと、足早に王城へと渡った。

―――たかがウサギ一匹。
いくらでも代えはある、と誰もが思う中、意外にもユリアスの反応は早かった。
小動物専門の医師はもちろん、
毒という毒を学んだ者を全て呼び寄せるようにと命を下すと、
控えているセシアに視線を戻した。

「この菓子は、間違いなく第一王女のヘレナが持参したものなのだな?」 
 
問われたセシアは、深々と垂らしていた頭を上げると、
真っ直ぐな眼差しをユリアスに向け、はっきりと声に出して答える。

「御意にございます」

皇太子の暗殺を目論んだものの、 
その姿を見られた為に、標的を藤也に変えたのだと自ずと知れたユリアスは、 
大きく吸い込んだ息を忌々しそうに吐き出す。
腸はふつふつと煮えくり返り、藤也の命を狙った者を八つ裂きにして、 
だが息の根は止めず、後悔する間も与えないように痛みで苦しめさせてやりたいと、
猛烈にどす黒い思いを抱きながら放たれた、 
研ぎ澄まされた鋭い視線は近寄り難く、周囲の温度を一気に下がらせる。
それは、ユリアスの本性を垣間見たことのあるセシアですら、
血の気が失せそうになったほどに……。
それほど、彼の怒りは計り知れずに大きかったのである。

〜To be continued〜

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