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Fate 55
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- 2008/06/11(Wed) -
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―――トップに君臨する第一夫人ほどではないとはいえ、
第三夫人付きの侍女の数は、驚くほど多い。 陽が傾き出した午後。 表向きは台帳の書き換えという名目で、 一人ずつ進められていく面接は、目下その私室敷地内に設けられている、 宿舎内の一角にある事務部屋を貸切って行われている最中である。 女官長次官のディアナは、質問や記載等は全て部下に任せ、 立ち替り入ってくる侍女たちの、とある一点に着目し続けていた。 数にして、およそ二十人目辺りになるだろうか。 やっと探していたものが見つかったのではないかと、 キラリと視線を鋭く輝かせたディアナは、 徐に椅子から立ち上がると、目前の侍女に歩み寄った。 そうして彼女の右腕を無造作に掴みあげる。 藤也が後から思い出したと言って来た話によると、 手首の外側に固まって、四つの大き目な黒子があるらしい。 そして、それらを全て直線で結ぶと、とある整った四辺形になるのだと。 それが容疑者の唯一の特徴ではあるものの、 右手首の付け根に凧型に見える黒子を持つ者がそうそういるわけもなく、 重要な手掛かりになると踏まえている彼女は、黒子を確認する。 一方の、ディアナにいきなり腕を掴まれた侍女は、 一体、自分の腕がどうしたのか、と首を傾け、不思議そうな表情を垣間見せる。 「どうやら貴方には、もう少し踏み入って問わなければならないようですね」 そう深刻そうな声音でディアナが述べた一刹那、 傍らに控えていた、特務を帯びて宦官に扮するラウルが彼女の身柄を拘束する。 その口腔内には、舌を噛ませぬようにと麻布を押し込められた彼女の頭の中には、 数日前の犯行直後に、側室の一人にすれ違った時のことが映し出されていた。 やはりあの時、顔を隠そうとして覆った腕の黒子を見られていたのだ、 と巡らす顔は見る見る内に青ざめて血の気が引き、 支えられていないと立っていられないほど膝から力が抜け落ちていた。 この一件がただの台帳の書き換えなどではなく、 自分を捕らえる為に図られたものだったのだと知る彼女に、 「申し開きをするのなら、陛下の御前で述べなさい」 そう告げたディアナに、新たな指示を受けた部下たちの数人は慌しい動きを見せ、 衣装の裾を翻して扉の向こうへと消えていく。 身体を両側から支えられ、周囲をガードされた容疑者である侍女は、 騒ぎが広がらぬようにと最新の注意を払われる。 それは、まだ幼い第一王女の行く末を案じたユリアスの配慮であった。 そうして人目を忍んで裏口から連行されていく中、 ディアナも、容疑者を捕らえた際には必ず連れて来るようにと、 宰相のムスタファに密命を受けていた自身の足を目的地へと足早に向けた。 ◇ ◇ ◇ 連行先は王城内ではなく、後宮内の女官長の詰所である。 本来なら、王城内の政務を執り行う場で取り調べを行うのだが、 此度の暗躍の裏には、侍女が仕えるヒルダ夫人が控えていることもある。 現制度では、王女を産んだ夫人とはいえ、 正妃になる以外では、側室が後宮から外へ出すことが認められてはいないのだ。 むしろ、策動させた主犯が夫人ではないかと疑うユリアスは、 手っ取り早く断罪させようと、 後宮の特別法を用いて、臣下の者を女人の園の一角に立ち入れたのである。 その為に、女官長の詰所には、 後宮内には立ち入れないはずの面々が一同に会していた。 その中央に用意された椅子に腰掛ける精悍なユリアスは、 大国の王らしく威厳を放ち、けれど平常の数倍以上の冷酷さを増している。 拘束を解かれた侍女は、 床に這いつくばるように身を伏せ、恐怖に身体を戦慄かせていた。 そして尋常でない、身も凍り、震え上がるほどの強い視線を目の当たりにし、 書いた密書の呼び出しに応じた皇太子を、 後ろから泉の中心めがけて突き落としたと供述せざるを得なかった。 皇太子の暗殺、それだけでも大罪である。 だが、正直これほどまでユリアスを烈火の如く怒りらせているのは、 唯一大切な存在だと言っても過言ではない、 藤也の命を絶とうとしたからだと、ムスタファは考えている。 全ての事柄をどこか冷めたような雰囲気で捉え、 何事にも動じることなく、国を背負う者としての責務を果たすべく、 まるで機械のように動いていたユリアスに、 人間らしい感情を沸き立たせたのが藤也である。 ユリアスにとって、殊更に特別な存在である彼は深く愛でられ、 何よりも、己の命よりも大切だとさえ思われているのだ。 そんな彼を傷つける者は誰であろうと容赦することはないだろう。 それは十二分に悟っている上で、 「素直に吐けば、慈悲や温情もある」 と通例通りの言葉を言い放ったムスタファだったが、 今のユリアスにそんなものがあるとは到底思えない彼の目前で、 ―――ガタッ…。 憮然に立ち上がった、澄んでいたユリアスの深い紺碧の双眸は、 耐え難いほどの怒りに、凶悪的な色を孕んでいるものへと変貌を遂げていた。 〜To be continued〜 |
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