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Fate 56
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- 2008/06/12(Thu) -
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「お、王子が亡くなれば、ヒルダ様にも再び子を儲ける機会が……あります」
と吃りながら漏らすように話し始めた侍女は、 ルキウスを背後から池へ突き落として立ち去る直後、 その姿を見られてしまった為に、藤也を密かに狙い殺すことを目論んだと打ち明けた。 絶好の時期を伺うも、好都合なことに、 「ルビー」目当てで藤也の元へ通っていることを知った彼女は、 無垢な王女のヘレナを使い、致死量のドクウツギの種を混ぜた菓子を持たせたのだと言う。 そうとは露知らぬ、そんな差し入れを藤也が口にしなかったことに、 嘗て信じたことすらない神にさえ感謝したユリアスは、 今すぐにでも嬲り殺したい衝動をぎりぎりな状態で抑え込んでいた。 一介の侍女が王族の暗殺など企むわけもなく、 背後にいるヒルダが主犯に相違ないと直言的に確信している彼は、 断罪させるべく、その確かなる証言が欲しかったのだ。 けれど、明らかに動揺している様子を垣間見せているというのに、 「全てはわたくしの……一存で致しました」 そう頑なに追求に首を振り続ける姿は、 ユリアスの沸々とさせている怒りの感情を煽らせるものでしかなかった。 「もう、よいッ」 重苦しい溜息を吐き出すとギリリと歯軋りを立て、椅子から立ち上がる。 「ルキウスだけならまだしも……」 けれどポツリと零したそれは、消えそうなほど小さな呟きだった為に、 傍らのムスタファ以外の周囲の者には届かないものだった。 だが、零したことを気に留める様子もなければ、 腰に差している長剣の柄を握りしめたユリアスは嫣然と微笑み、 「貴様は、手を出してはならぬ者に手を出したのだ!」 底冷えのする怒声を上げると鞘から抜き取り、ビュン…と音を立てて空を切る。 只の脅しではないことに、 ゴクリと唾を嚥下した侍女の背筋に冷たい戦慄が走る。 そうしてその鋭く尖った剣先を向けられた彼女は、 「ひいぃぃぃぃ!!」 恐ろしさに耐え切れずに泣き叫ぶが、その悲鳴には無感情なままのユリアスは、 怒涛する激しく打ち寄せる怒りに任せ、剣を振り上げた。 ◇ ◇ ◇ 女官長次官のディアナに、急くように案内された場所は、 国王の私生活の場である正居殿から後宮へと続く細い通路を抜けたすぐ側に建つ、 飾らない、少し古ぼけたような西洋風の建物だった。 「失礼致します。マディーナ様をお連れしました」 ディアナの発した言葉とほぼ同時に、 待機していた女官によって重たそうな扉がゆっくりと開かれる。 (―――ユ、ユリアス!!) けれど開かれた先の目に映った光景に心臓が凍りそうになり、一瞬気が遠くなる。 手にした大きな刀を今にも振り下ろそうとしているユリアスの姿に、 自分でも身体が戦くほど、恐ろしさに怯えているのが分かる。 だが無意識の内に、 「…………………何、で?」 そう呟くのが早いか否や、それでも藤也は鬼のような形相で顔を歪め、 冷たい殺気を放っているユリアスに向かって駆けていた。 緊張した空気が張り詰める中、ガタガタと震える侍女を見下ろし、 「まずは右腕を……」 と狙いを定めた刹那、 バタバタと走り寄る足音と共に、視界の隅に見覚えのある黒いヴェールが映る。 「……何故だ」 幻覚でも見ているのか、と思考が追いつかないままにしがみ付かれた瞬間、 有り得ない温かみにビクッと身体を反応させたユリアスは、 一瞬にして冷たく張り詰めさせていた空気を緩ませる。 剣を下げ、藤也を抱きしめてその肌の温もりを全身で感じ取る。 そうして享受した短い沈黙の後、愛しい存在を真っ直ぐ見据えると、 「この者が仕出かした罪は、万死に値する。それ相応の罰を与えねばならぬ」 極刑は当然だと宣言すると、視線を忌々しそうに侍女へと戻す。 「だが、安心するがいい。簡単には殺しはせぬ」 口角を吊り上げて言い放ったユリアスは、 再び殺気を放ち、黒々としたオーラを纏っている。 薄笑いを漏らしながら明言した彼は、それだけ怒りが深いのだろう。 微動にしていなかった腕に力を加えると、再度長剣を振り上げようとする。 「……ちょ、ユリアス?!そんなことしちゃ、いけないッ」 切羽詰まったような声音を上げながら、 身体にしがみ付いていた腕を離すと、咄嗟に剣を翳している腕を掴む。 国王に対してのそういった行動は、本来ならば不敬罪に当たるのだ。 それこそ手打ちに遭ってもおかしくはないということを、 後宮へ入る前にユリアスの顔に引っかき傷を付けてしまった際に、 側近のファティマから聞かされていた藤也は、知っていた。 隙を見せることが死に直結するこの世界は、日本とは違う。 それは上に立てば立つほど、 そして国が大きくなればなるほど規律や戒律は厳しくなる。 それでも、激情に駆られて人を殺めることには納得出来ないのだ。 ぎゅっと舌唇を噛み締め、命一杯の力を腕に入れて必至に止めようとする、 予想外の行動を起こす藤也に、ユリアスは険しい表情で問いただす。 「何故に止める?!此奴は、罪のないそなたの命を奪おうとしたのだぞ!!」 そう怒声を張り上げ、冷徹さだけを際立たせているユリアスを前に、 自分の主張を譲らずに言い張る姿を目にしている周囲の者達は、 その成り行きを息を凝らして見守るしか出来ずにいた。 〜To be continued〜 |
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