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Fate 59
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- 2008/06/23(Mon) -
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―――バシッ…。
それは、尋常ではない、 震え上がるほどの強い視線が交差する張り詰めた沈黙の中で、 繰り広げられた一刹那の出来事であった。 「無礼者!」 高みから、底冷えのする声音で吐き捨てたヒルダ夫人は、 禍々しく目を細め、不愉快極まり表情をさせると、 自分に差し向けられた、縋る様に小刻みに震え続ける侍女の指先を、 平然と、そして無情なまでに扇子の先で打ち払ったのである。 一瞬、その意味を悟ったかのように虚ろな目を見開かせるも、 それでも額を床に擦りつけて平伏する姿は、あまりにも痛々しいものだった。 自分が生き残るためには、臣下の者ですら当たり前のように切り捨てる…… それがまかり通るこの世界に唖然とする藤也は、 目前で展開する悲惨な光景はもちろん、殺人未遂現場に出会したり、 自身も毒殺のターゲツトにされたりと、そのどれもが現実からはほど遠く、 まるでサスぺンス劇場の洋画版でも見ているかのような気さえしていたのだ。 だが今、現に事実として存在しているこの状況を前に釈然としないものの、 辛辣な面持ちで固唾を呑むしか出来ないことに歯痒く、 そして無念にすら思え、苦々し顔つきで唇を噛み締めていた。 犯行現場近くで姿を見られたとして、 側室の命を狙った侍女には厳しい刑が与えられたのだ。 その本元の皇太子暗殺を画策したとされる疑い極まりない夫人には、 誰もが深く糾弾するであろうと踏むのは当然のことだろう。 けれど意外なことに、ユリアスは追求する手を緩めたのである。 「身に覚えのないという、その方の話を信じるとしよう……」 そう紡いだ裁定を下す言葉は、詰所内に会する一同に驚きを露にさせるものであった。 無罪放免という予想外の結末は、しこりとなって例えようのない苦さが残るものの、 主犯格だと確信している夫人を見逃すつもりなど毛頭ないユリアスが、 あっさりと決っしたのは、偏にまだ幼きヘレナ王女のことを考えたからに過ぎない。 王族と深く繋がりのある者から犯罪者が出ることほど、 王家の誇りを著しく損ねるものはないのだ。 それ相応の大いなる罰を受けさせるべきだとは思うのだが、ここで大事にすれば、 犯罪者の娘として扱われてしまうヘレナは、皇籍を失うことになる。 王として果たした責務から誕生した彼女に対し、父親らしい感情は未だ薄い。 けれど生まれてくる子は親を選べず、 そしてヘレナ自身には罪はないと主観的な価値づけをするユリアスは、 彼女の名誉を傷つけることだけは避けてやりたいと思ったのだ。 そうして疑いを掛けて呼び出した非礼を、夫人に向かって詫びたユリアスだったが、 静か過ぎるその声音は、彼の怒りを克明に伝え、部屋中へと満ちていく。 だが、勝ち誇ったように鼻をツンとさせると湧然と微笑む夫人は、 そのことには全く気づくことはなかった。 「私室にて、陛下が足を運ばれるよう……お待ちしておりますわ」 などとと、まるで何事もなかったかのように言葉を残すと身を翻した夫人の背を、 隠すことなく剣呑な目つきで睨みつけていたユリアスが、 クククッ……と、歪められた口許から不気味な笑いを零したのは、 その姿が映らなくなる頃である。 罪を認めてさえいたならば、ヘレナの手前、命までは奪おうとは思わず、 今まで通りの後宮内での煌びやかな生活をさせていたのにと、 侮蔑に突き放した薄い笑みを浮かべる彼は、 公の場で罰することは控え、その代わりにじわじわと身体を蝕ませる、 けれどそうとは気づかずに確実に死へと導く秘薬を夫人に用いることを選んだのである。 如何なる医師であろうとも、その原因を突き止めることは出来ないその効能は、 年齢を加速させたように肌や髪の艶を失わせていくことである。 ふくよかな肉体は見る見るうちにやつれ、若くして老女のように老けていく様は、 それは間違いなく、見目にこだわり、 派手やかに飾り立てた姿を自負する彼女を屈辱感に浸らせ、苦しませることになるだろう。 そうして恐ろしい薬理作用をもつ劇物で病に臥した彼女は、 ひっそりと後宮内で命の灯火を消すことになるのだ。 「……愚かな女だ」 そう毒する言葉を吐くと指を鳴らし、宦官に扮していたラウルを呼び寄せていた。 〜To be continued〜 |
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