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Fate 72
- 2008/08/02(Sat) -
いつの間にか、深い眠りに落ちていた藤也は、
ユリアスの計らいにより、数時間の間、夢の世界に旅立っていた。

その甲斐もあってか、身体の疲れが幾分良くなった彼は、
上機嫌で夜会に繰り出したのだった。

アルザスたちに再開できた喜びはもちろん、
自分の居殿に勤める、いわば身内ともいえる人たちに、
正妃になったことを祝ってもらえるという祝宴に、舞い上がらない方がおかしいのだ。
しかも、ひっそりと生活していた藤也には、全く無縁なことであり、
初めての宴デビューに浮かれ、ちょっぴり破目を外してしまった彼は、
わずか三十分という短い時間で、再び寝台の上の住人と化していた。

顔を真っ赤にし、ハァハァと荒い息を付く藤也は、
何を隠そう、たった一杯の果実酒でものの見事に酔っ払ってしまったのである。
地球歴で言えば未成年である十八歳も、この世界では歴とした大人に相当するわけで、
一旦飲めないと断ったものの、軽いものですからと勧められた彼は、
お祝いにと用意してくれたという自家製の果実酒を頂いてしまったのだ。

「大丈夫ですか? 直ぐに薬湯をお持ちいたしますわ」

キャッキャッと箸が転がっても笑える状態で気分が昂ぶり、
大はしゃぎする藤也は、トロンとした目をウサギのルビーに向けると、
ラブリ〜とか、分けの分からない言葉を口にしながら、
ヒクヒクヒさらているその鼻先を指先でつんつんと突いたりして弄んでいる。

一瞬目を離してしまったことを激しく後悔し、
くらくらと目を回して倒れこんだ藤也を心配しながら居室に連れ帰ったセシアは、
髭を引っ張られたり、耳を掴まれたりと、
ルビーにとっても迷惑極まりない行為をされているのだろうとは思うものの、
絡んでいる空きに、酔い覚ましの薬を取りに行こうとする。

「んん、いらな〜い。もう直っちゃったしぃ」

薬湯が苦いということを知ってか知らずか、呂律の回らない藤也は、
頭をブンブンと振った拍子の勢いに乗ったまま、寝台にパタリと倒れ込むほど、
まだかなり酔っている状態である。

「だからぁ、酔ってらいてばー」

薬湯の器を持って現れたセシアにそう言いながら、

「1+1は……えぇ〜と、1がふたつぅ? ほら、酔ってらいおー」

楽しそうにケタケタと笑う藤也は、
苦い薬湯を先ほどの甘くて美味しい果実酒のお代わりだと唆され、
香りすら分からなくなっているらしく、一口飲み込むも、

「うげぇ、超にっがーーいぃ! セシアの嘘つきぃー」

目に薄っすらと涙を浮かべ、思いっきり渋い顔を呈したまま、
やっと意識を手放して眠った彼は、おそらく今夜のことは覚えてはいないだろう。
何故かと言えば、
以前、ユリアスがブランデー入りのチョコレートボンボンを差し入れたことがあるのだが、
それを食した際にも、同じように酔っ払って目を回したのだ。
しかも、一度に大量のチョコを召し上がった所為か、鼻血まで垂らしていたのだ……。
そんな藤也が目を覚ました時、彼の頭の中からは、
美味しかったチョコレートを食べたこと以外の全ての記憶がすっ飛んでいたのである。

二週間後に祝宴の儀を控えた今、その経緯を唯一知るユリアスは、
人前では絶対に飲ませることはしないだろうとは思いつつ、
それでも避けられず、執拗に迫られることがあるかも知れないのだ。
今から慣らせば、少しくらいなら酔わずに嗜めるようになるのではと思うセシアは、
茶さじ一杯ほどの食前酒を用意するべきかどうか、真剣に悩むのであった。

     ◇     ◇     ◇

―――その翌日、カーテンの隙間からこもれる陽の眩しさと、
遠くの方で遠慮がちに潜めて会話する声が鼓膜に届き、彷徨っていた意識が浮上する。

暫く横になったまま、いつもと感触の違う精巧かつ豪勢な、
それでもって煩わしさを微塵にも感じさせない刺繍細工の寝具と、
見慣れない華麗な天井をぼんやりと見つめていた藤也は、
気怠そうに前髪を掻きあげた。

「……セシア? 誰か、居るの?」

独り言でも呟くような小さな声で口を開くと、
時を移さずしてセシアが寝台の近場へ足早に歩み寄る。

「申し訳ございません。まだお休みなられていると申し上げたのですが、
遠くから様子を見るだけだと仰られましたので……」

そう少し困ったような表情で話す、
彼女の後方にゆっくりと流れるような動作で視線を向けた刹那。
視界に捕らえた数メートル先に佇む小さな存在に、
藤也の眼は、思わず大きく見開かさせられるのだった。

くるくるの巻き毛をして、
まるでお人形の様に可愛いらしい出で立ちの彼女は、
ウサギのルビー見たさに、後宮内のマディーナの私室の窓枠によじ登ったという、
やんちゃな経歴を持つ……第一王女のヘレナである。


〜To be continued〜

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